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交錯する気持ち②

「あー、恋人いるくせにナンパか?さすがイケメン高校球児は違うねー。」  からかうような声をかけられて智裕と井川はそちらを向くと、2人が探していた人物が後ろに白衣の天使を引き連れてやって来ていた 「ナンパじゃないですぅ、な、井川?」 「う、うん。」  智裕に同意を求められて井川は視線を合わせた。  ふて腐れたような顔をする智裕にも井川はときめく。 (あれ?なんか……ちょっとモヤモヤする…。)  裕紀のすぐ後ろで2人を見ていた拓海は、笑顔を崩すことはなかったが心の中で僅かだけ悲しげになった。 「ほっしゃんこそ何してんの?……まさか……!」 「俺と石蕗先生は、2人でオトナなお話をしてたところだ。ねぇ、先生?」 「え⁉︎」 「へー……へーへー!」  智裕の笑顔は引きつっている。完全に嫉妬をしている。裕紀は面白がってニタニタしながら智裕を見おろす。  その高身長同士の迫力に155cmの井川は圧倒されたが、本来の目的を思い出して声をだした。 「ほっしゃん!私と松田くん、ほっしゃんに用事あって待ってたんですよ!」 「お、そうだった……井川サンキュー!」  にらみ合いをやめて、智裕はまた感謝を述べながら井川に笑顔を向けた。すると井川の頬が紅潮してしまう。  智裕はそれに気がつくことがなく鞄を漁った。 「ほっしゃん、来週の水曜から土曜って俺公欠になんの?これ代表のスケジュール。」 「あ?これ原本?」 「うん。」 「アホか、すぐにコピー取るぞ。井川も用事?とりあえず2人とも職員室入れ。」 「はいはーい。じゃ、ツワブキ先生、またねー!」  智裕は拓海に無邪気に笑いながら手を振る。  井川は拓海に「失礼します。」と頭を下げて、智裕に続いて職員室へ入っていった。 (あの子…もしかして……そうだよね…智裕くんカッコいいし、優しいし…さっきも仲良くしてたし。)  拓海の心に新たにモヤがかかったようだった。

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