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マツダくんとユイさんの距離⑤
何だかアホらしくなって、八良はブルペンからグラウンドに出て行こうとした。
「ハチロー、今日はもう投げんと?」
後ろから声を掛けられたので振り返ると、プロテクターをつけた仏顔の後藤がいた。
後藤は普通にしてるはずの八良の変化に気がついたようだった。
「どげんしたと?1日目なんが悔しいか?」
「……は?別に、監督はあくまで想定して、やろ?せやったら俺が日本のエースやって明日示せばええねん。」
「で、それする為に何か手はあると?」
「それはレオっちが考えるんやろ。」
「ヒュー、他力本願かーい。」
「レオっちかて、2年の天才型に正捕手奪われてええの?」
八良にとってもうひとつの脅威、それは普段は仲間で自分の相棒でもある晃。
彼もまた智裕と同じで、グラウンドの扇の支柱に着いた瞬間、何かが憑依したように人格が変わる。後藤と八良はこれが怖いのと同時に気にくわない。
「ハチローはU-15ん時から知っちょるやろ、俺んこつ。」
「…………ああ。」
後藤の声に黒い霧がかかったような、怒りとも違う感情が現れた。
仏のような笑顔の眼は、悪魔そのもの。
「俺はそげん天才をポッキリ折るんが大好きやけん。ハチローもやろ?」
同意を求められた八良の眼にも炎が宿っていた。
「ああ、天才とかアホらし。大っ嫌いや。」
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