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マツダくんとユイさんの距離(11)

 30分ほど経ったくらいで、車はどこかに停車した。  エンジンを切ると、由比はシートベルトを外して車を出た。智裕は「へ?何?」と挙動不審に辺りを見回す。すると智裕の席のドアを由比が開けた。 「はい、降りて。」  午後8時少し過ぎ、空は真っ暗だった。外に出ると潮の匂いが鼻をつく。  夜風が寒く、肌をさす。 「ここ、どこですか?」 「海だよ。」 「あ、あれレインボーブリッジですか?」 「そうだよ。」  どうやら湾岸エリアにやってきたらしい。遠くの方には工場の灯りが(きら)めいている。 「現役の時、ナイターの負けて気持ちが荒れたりしたときにこの空気を吸いに来てたんだ。」  由比は暗い海を眺める。その横顔はとても美しく、智裕は思わず見惚れてしまう。 「たかが日本、この海の向こうにはもっと熾烈な争いをしている同志がいて闘っているのか、そう思えば自分が小さく見えてきてね、悩むこと悔いることが馬鹿馬鹿しくなって…そんな大切な場所なんだココは。」 「……じゃあなんで…俺なんかをここに連れて来たんですか?」  当然の疑問だった。  智裕にも、大切な拓海でさえ入ってくることを躊躇われる場所がある。由比にとって自分の今いる場所はそうなのではないのかと。

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