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マツダくんとユイさんの距離(12)

 不安な顔になって由比を見ると、由比は優しく微笑んで智裕を真っ直ぐに見ていた。 「僕は君のお陰でやりきることが出来た。君に大きなものを貰った。だから僕は、君が苦しむのなら、それを拭ってやりたい。」  一歩、一歩、由比が近づく。智裕は動けない。 「明日はベンチに入らないんだよね。」 「は、はい……。」  スルリと頬を撫でられる。  智裕が憧れた左手の感触が伝う。 「好きだよ、智裕くん。」  海の音が一層うるさくなったのと同時に智裕は「由比コーチ!」と抵抗しようとしたが、言葉は綺麗な唇に呑み込まれた。

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