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立ちはだかる壁③

「で、お前らは明日来るって…野村から連絡あったんだけど。」 「みんな(野球部)では明日な。今日は俺だけ、悪いか。」 「別に……何かあったのかなぁって。」 (まぁ、どーせ畠が目当てなんだろうけど。)  わざとらしく智裕が訊ねると、恭介は深いため息を吐いてグラウンドを見つめる。 「晃から昨夜(ゆうべ)、泣きながら電話きた。」 「……え、畠が泣い…っ⁉︎うっそだろ!」 「アイツしょっちゅう泣いてるぞ。」  智裕は驚き、恭介は「いつものことだ。」と言うように呆れる。  晃は強豪・馬橋学院の主将にもなった男で、捕手としている時は常に厳しく毅然として立っている。智裕もこの3日間、晃に引っ張られていた。  そんな晃が泣くなど、智裕には想像も出来ないことだった。 「晃、国際大会って今回が初めてなんだろ?で、後藤礼央はU-15も経験してんだっけ?」 「あ、ああ…俺は組んだことないけど……いたよ。去年のU-18でも2年で正捕手だったはずだし。」 「昨日バッチバチに睨み合ったらしいじゃん。それが怖くなったんだとよ。」 「あー……あぁ?でも俺より畠のがすっげーガン飛ばしてたぞ!」 「へー。あの泣き虫恥ずかしがり屋のあっくんがねぇ。会ったら褒めてやんねぇと。」  恭介の顔は嬉しそうにニヤニヤとした。そんな恭介を見ると、益々智裕は怪訝な表情を浮かべる。  しかし恭介はさすがだった。智裕の異変を察知してる。 「で、お前はどうなんだよ。今日はベンチ外だけど、練習とかは?」 「朝少し調整程度でブルペン入った。」 「誰が受けたんだ?」 「……由比、コーチ。」  恭介はすぐに智裕の異変の原因を確信した。  由比壮亮を盲目的に尊敬している智裕が、その名をこんなにもローテンションで出したことはおかしいことだからだ。

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