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超えていくべき壁②

 智裕はスタンドを降りて選手がいるロッカーに戻った。 「あ、トモちーん!おっま、俺が必死で投げとるのに何優雅に観戦してんねん!」  メディア対応を終えて戻り右腕をアイシングしていた八良が少し拗ねたように戻ってきた智裕に文句を言う。  先ほどまでの覇気や昨日の険悪が嘘のようにいつも通りだった。それに智裕は少し面を食らった。 「俺は腕を休ませてるんですぅ、明日に備えてんですよ。」 「ほー、そない言うなら見せてもらおうやないかぁ。」  ニヤニヤとからかうように智裕を見る八良に、智裕も笑った。 「明日フロントドア投げちゃおうかなぁー。」 「あ、そういうの反則やで!」 「いやいや、ツーシームだからいいんですよーんだ。」  そんな小競り合いをしているといつのまにか智裕の後ろにいた人に智裕は小突かれた。 「そげー元気は明日に取っちょけや。」  振り向くと、肩をアイシングする後藤が呆れたように笑っていた。 「後藤先輩、お疲れっす。というかあのホームランエグすぎですよ。」 「あははは。たまたま芯にバチコーン当たっただけやけん、シュンちゃんのソロん弾丸ライナーのがエゲつなかったやん。」 「そうですね…あれは凄すぎました。」  7回で更に追加点をあげた中川のホームランを智裕は思い出して顔を青ざめた。そんな智裕の表情を笑いながら後藤は八良の隣に腰をかけた。

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