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超えていくべき壁③

「何か面白い話しちょったやん、フロントドア投げるん?」 「らしいで。せやけど投げれても逸らしたらおしまいやろ。」 「そうやね、俺なら捕れる自信あるけど。」 「馬橋(ウチ)の正捕手さん、俺のバックドアにも未だに反応鈍いからなぁ。(むずか)し思うで。」 「ふーん……まっつんは由比コーチからお許しは出ちょると?」 「まぁ…切り札だからあまり見せないようにとは言われてますけど……。」  智裕は「由比コーチ」という名前に少し過敏になった。後藤は少しだけ眉を動かしたが、すぐに仏のような笑顔を戻した。 「俺も明日も出る準備はしちょけって言わたけん、安心して投げないや。」 「は、はい。」 「但し、俺はビッシビシいくで♪」 「それは知ってます。」  智裕は仏の笑顔に閻魔の凄みを感じて背筋を伸ばした。 「そういや八良先輩、俺帰る前に明日のことで畠と話したかったんですが…。」 「畠なら宮寺コーチとコーチ控え室に行ったで。今日も代打で出たけど見事に三振やったから少し説教もされてんのちゃう?他のコーチもおるし行ってみたら?」 (他のコーチってことは…由比コーチもいるんだよな……うん…で、でも、今は試合が終わったとしても選手としてだから!大丈夫!) 「じゃあちょっと行ってきます!」  一抹の不安を抱えながら智裕はロッカーを出てコーチの控え室に向かった。

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