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ユイさんのこと②

「そこ座れ。」 「は、はい。」  促されて長机の席にちょこんと縮こまって座ると対面に関本監督が「どこっらしょ」と言いながら腰をおろした。 「松田、どうや調子は?」 「え、えっと、いつも通りです。」 「今体重は?」 「あ、えっと、今朝量ったら75kgでした。」 「決起集会の日ぃからだいぶ仕上げたみたいやな。」 「はい…あの部活の、チームメイトが体の作り方とかウェイトトレーニングとかの方法を調べてくれてすごく協力してくれました。」 「そうか……フォーム改善も2週間でやりおって、正直ここまでとは思わんかったぞ。」 「え?」  関本監督は「ふぅ」と一息つくと、少し遠くを見るようにして話を続ける。 「お前、由比壮亮を慕っとんのやな。」 「え…っと、はい。俺が唯一憧れている選手で、した…けど。」 「由比は11年前に大卒でドラ3…3年目の26の時に沢下賞投手になった。そして2年後に最多勝、最優秀防御率、最高勝率の三冠投手で2度目の沢下賞、せやけど翌年の優勝争いの最中に怪我、そこからは生き残る為に抑えや中継ぎ、時にはワンポイントとして起用されることもあった。で、最盛期を感じされることもままならんまま引退や。あの顔やしすぐにタレントとして仕事が舞い込んでもぉたから一見順風満帆に見えるんやけどな。」  智裕も知る由比の野球人としての歩み、改めて聞くと胸が痛み、プロの厳しさがよくわかる。

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