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ユイさんのこと③
「俺は現役最後の年にルーキーの由比と対戦して、えらい投手が出てきたもんやなぁと感心して仲良ぉなったんや。客員解説者になって取材するよぉになってからもちょいちょい食事に誘ったりして、由比の天国と地獄をどっちも見てきた。怪我をしてから調子落としてファンからの野次やメディアの叩き、『由比は終わった』と囁かれて流石の由比も参っとったわ。天才的な左腕のプライドもズッタズタや。せやけどある日、突然けろっと立ち直りおった。何があったんやろって聞き出したら、当時スピンズのジュニアチームでエースナンバー背負っとった子供のおかげや、って嬉しそうに話しとった。」
そして関本監督は鋭い眼光で智裕を見る。
「その時のスピンズジュニアチームの背番号『1』は小学生ながら落差あるスプリットと動きの激しいカットボールを正確無比に投げるスリークォーターの技巧派左腕…まさに由比の生まれ変わりのような投手やった。俺も取材に行かせてもろぉてその投球は鮮明に覚えとるわ……松田智裕。」
「え……。」
関本監督は「ふっ」と笑って立ち上がる。智裕も慌てて続き立ち上がった。
「明日はお前がチームを引っ張っていけよ、頼んだで。」
智裕は左腕の震えが止まっていた。
そしてその目の奥には、炎が揺らぎだした。
そして智裕の頭の中に、昨夜背負った罪悪感などはすべてなくなった。関本監督はそれを確信するとほくそ笑む。
(これで明日、松田2号は大丈夫やろ。残りは、女房役やけど…だいぶ後藤にやられとるし…我慢は3イニングまでやな。)
智裕と晃、それぞれに大きな壁が立ちはだかっていた。
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