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マツダトモヒロという存在⑦
智裕と畠は調整で30球ほど直前まで投げた。
「智裕くん、畠くん、腕や肘は大丈夫かな?」
「はい!」
「問題ないです。松田、頼むで。」
「おう。」
投げ終えたあとに肩を冷やさぬように、由比が肩にタオルをかけてくれていた。
智裕は今だけは由比の目を見て、真剣な面持ちだった。
「由比コーチ。」
「ん?」
由比の華奢そうにみえてしっかりとした左肩に智裕は額をつけた。由比はそんな智裕を抱きしめた。
そんな2人のやり取りを見かけた観客が騒ぎ出すが、2人にはそんな雑音は耳に入らない。
「智裕くん、君は1人じゃない。僕がちゃんといるから、な?」
「はい…。」
「後ろにはみんないる、ベンチにも後藤くんが、スタンドにも八良くんがいる。君の相棒も真っ直ぐ見たらちゃんといる。いいね?」
「はい!」
智裕が顔を上げて由比の目を見つめて「行ってきます!」と力強く発したと同時に、野手陣も円陣を組んで声を出していた。智裕と畠もその輪の中に混じる。
「今日も打って守って!絶対勝つぞ!」
っしゃー!
由比は智裕が肩にかけていたタオルを力強く握りしめた。
(智裕くん、君という存在を…見せてやれ!)
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