958 / 1000
マツダトモヒロという存在⑧
スタンドから智裕たちの出陣を見守っていた拓海だが、心の中は穏やかでいられなかった。
今にも泣き出しそうなくらいの嫉妬に駆られている。
「由比コーチと松田の蜜月ゆーのも、案外ホンマのことかもしれへんな。」
「……え?」
郁海がボソリと呟いたその言葉を拓海は疑った。
「松田智裕の投球スタイルはまんま由比壮亮で、まるで自分の分身に見えるんはわかるけど、あそこまでのスキンシップするかって思うわ。」
「………にぃちゃん…何、言 うてんの?」
「ヤラシイ意味やないけど、松田智裕は間違いなくプロに近づいとる。もう違う世界の人間になっていきよる…わかるやろ?」
「……にぃちゃん、やめて……頼むから…。」
拓海が耳を塞いだが、主審の「プレイボール」の合図が出されて、大学日本代表側の応援が一気に加熱した。
「拓海、ちゃんと前見とき。あれが松田智裕や。」
「……にぃちゃん……。」
(見ないと…智裕くんを……見ないと……。)
拓海が意を決して顔を上げると、すぐ近くのグラウンドはまるで別次元の場所のようだった。
ともだちにシェアしよう!