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マツダトモヒロという存在⑨

 振りかぶって、しなやかな腕の振り、明らかに速い球、ズバンッとミットの快音と同時に拓海の心臓も跳ね上がった。  思わず声に漏れた。 「綺麗。」  その言葉を聞いた郁海は「はぁ。」と呆れたようにため息をついた。 「せや、あんな綺麗な球を(ほお)れる奴はそうそうおらん。あれはもっと上に行ける、いや、人間や。」  郁海はカメラをしまい、カバンを持って立ち上がった。そして拓海の頭をクシャクシャに撫でた。  しかしその手がすぐに離れ、名残惜しく郁海を見据えると、郁海は無表情だが真剣な目をしていた。 「拓海、お前は松田智裕から手ぇ引け。」    相変わらずに冷たい郁海の声が、残酷に拓海の脳内に深く突き刺さった。  それと同時に智裕は2人目の打者を、由比によって改善されたスプリットで空振り三振に仕留めた。

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