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マツダトモヒロという存在(11)

「あれ、高校2年の球かよ……。」  打者の大沢はバッターボックスを一歩出てバットを振り苦笑いで呟いた。それを聞き逃さなかった晃は地面を少し(なら)してしゃがみ直す。  智裕はロジンバッグを掴んで滑り止めをし粉を強く吹きながら大沢を鋭く見る。 (あー、なんかビビられてっけど…次は変化球で球速落とすか…畠もそうするかもな。)  そう考えてポジションについて晃のサインを待った。  晃は智裕の予想を裏切って、またストレートを少し違うコースで要求してきたので智裕は少しだけ戸惑った。  しかし智裕は晃を信じることにした。  カーンッ  木製のバットの快音が鳴った。  しっかりスイングされていたが少しだけ外れていたおかげでセンター前ヒットで1塁に大沢が出た。 「あ…。」  晃の戸惑いの声は歓声でかき消されていた。1塁ベースではコーチと大沢が話している。  その目線は智裕でなく、心なしか晃に向けられているようだった。

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