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マツダトモヒロという存在(15)

 拓海がふいにブルペンの方を見ると、智裕がマウンドに上がって軽くキャッチボールを開始した。  1球目を投げ返されてキャッチした時、智裕が拓海と目が合った。すると智裕は笑って拓海に手を振った。拓海も嬉しくなって手を振り返した。 「まっつん!何しよんつか!」 「あ、すいません!」 「あれか?例のセクシー年上女教師のカノジョでん見つけたつか?」 「それ今言わないでくださいよ!」 「大丈夫、ただの妄想っち分かっちょるき。」  後藤の叱責で智裕は目線を戻して、野球モードに切り替えた。 「なんか拍子抜けね…甲子園の時よりフッツーのテンションだし。」  驚きと安心の微妙な感情を高梨が吐き出した。するとその隣に座っていた直倫がつぶやく。 「由比コーチに指導されてから、メンタル面もかなり強化されたみたいですよ。トレーニングの様子を見ても意識が変わっていくのが分かりましたし…。」 「そうか。というかお前は公衆の面前で俺を(はずかし)めて楽しいのか直倫よ。」 「裕也さんの指定席ですよ?」 「もう帰りたい。」  膝の上に座らされている裕也の目は相変わらず死んでいた。  野球部の部員たちも直倫に哀れなものを見る目線を送った。 「香山(こうやま)先輩……あれが赤松のカレシ?っすか?」 「おう…松田のクラスメートな。」 「アイツ、甲子園の時は松田先輩と一緒に寝てたとか桑原先輩が言ってましたよね?」 「まぁ、松田も必死に否定してたけどな。」 「……え、アッチなんですか赤松。」 「俺は知りたくねーよ。」  香山と弥栄(やさか)一頻(ひとしき)りに話すと裕也と直倫を見ないようにグラウンドをずっと見つめた。  そんな中、拓海はずっと智裕を見つめる。 (にぃちゃん……ごめんな……俺、ほんまに智裕くんが好きやねん。だって、こんな些細なことでもこんな嬉しくなってまう…胸がいっぱいになる…智裕くんが俺のこと「好き」って「大丈夫」って言ってくれてるから、それを信じたい……。) 「もう……離れとうないんや……。」

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