969 / 1000
ハタケくんの壁④
「あー…詰まったなぁ…。」
友利が晃にわざと聞こえるようにそう言うとバットを投げてゆるりと走塁すれば1塁側のスタンドを中心に大きく盛り上がった。
晃はマスクを外して呆然と立ち尽くし、左側に転がるバットを見る。
(芯から下の方が、裂けとる…折れとる。)
智裕は苦い顔をしながらレフト方向を眺めている。
友利が悠然とホームインすると、内野陣はマウンドに集まった。晃も苦虫を噛むような顔で智裕の元に駆け寄る。
「おいおいおいおいまっつん、何してんねん。」
「シュンちゃんせんぱーい…俺全然失投でもなかったですよ!」
「すまん松田……俺の配球が甘かった。さっきの回でストレート見られてんのに…すまん…。」
「謝んなって。」
智裕はグラブで口元を隠しながら、左手で落ち込む晃の肩を叩いた。
「バット…折れとった……松田の球は球威も速度もコントロールも完璧やった……俺が…。」
「畠、次だ、切り替えっぞ。」
晃の肩は智裕に「トン」と軽く叩かれただけなのに、急激に重く、そして痛く感じた。
他の内野陣が散り散りになり、晃もなんとか足を動かして自分のポジションにつく。「すう」と大きく息を吸って、「ふう」と軽く息を吐いてからマスクをかぶる。
サインを出しながらしゃがんでマウンドを見ると、智裕は先ほどとは比べものにならない殺気に似たようなものを放っていた。
(俺は…これを知っとる……昨日のハチローさんとおんなじ……こんな松田知らんで…なんやこれ…。)
ストレートは見られていると読んだ晃はスライダーをまた内角に要求した。勿論、智裕は頷いた。
ともだちにシェアしよう!