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ハタケくんの涙④

 「あった、あった。」と言いながら八良が取り出したのは、首から下げるネームプレート。八良も今同じものを首からさげていた。 「3塁側、9番10番ゲートん方にキョーちゃんおったで。」 「………え。」 「6回までにそのしけた面、どうにかせぇ、アホ。」  そう言うと八良は晃からアイシングを奪い、ネームプレートを渡した。  晃はすぐにスパイクをスニーカーに履き替え、上半身のユニフォームを脱ぐとネームプレートをさげてロッカーを飛び出そうとした。 (でも待って……俺、どんな顔でキョースケに会うんや…。)  入口のところで立ち止まり、晃は自嘲する。 「こんな…とこ……キョースケに見られんの、無理です…。」  踵を返そうとすると、八良は晃の肩を押して無理やりダグアウトとは反対の方向に向かわせた。 「ハ、ハチローさん⁉︎ 何してん⁉︎」 「キョーちゃん、お前探しとったで。たまたま会うた俺に『晃はどうなってんですか⁉︎』って必死に()いてきとったわ。俺はそんなん知らんし、お前が直接どうなっとんのかブチまけてしまえや。』  トンっと背を押されると、晃は警備員が立つ関係者の入り口から一般エリアに出た。  脱帽をしてベリーショートの髪はヘルメットでぺしゃんこになっているからか客は誰も晃に気がつかない。  ただ1人、気付けばそれで良かった。 「晃。」  晃はその声を聞いただけで、堪えていたものが溢れてくる。  そんな姿を誰にも見せたくない独占欲に掻き立てられた声の主は力一杯に晃の手を引いた。

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