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旅の前の日⑨

「おい松田(どヘタレ)、あんた如きが乃亜に頼みごとをするならもっと頭下げな。」  智裕にやたら厳しい南は智裕を盛大に見降ろして凄んだ表情をすると、智裕は条件反射のようにすぐに正座をした。 「井川ぁ!頼む!放課後付き合ってくれぇぇぇえ!」  安定の土下座。  そして南と高梨はそんなヘタレの頭に足を乗っけて踏んづける。智裕の頬は床と同化しそうになるほどめり込むが、ドMにはご褒美だった。 「乃亜ちゃん、悪いこと言わない。やめときな。」 「絶対ろくな事起こんないから。」 「南ぃ…俺は純粋に勉強を……あ、気持ちいい♡」 「キモい。」  南が真顔で智裕の顔を蹴ると智裕はゴロンと横倒れになった。その姿はもはや日本のエースの片鱗さえ残っていない。  あまりに哀れだったのか、井川は席を立って智裕に駆け寄ると、笑顔を向けた。 「いいよ、一緒に頑張ろう。」 「井川ぁ……神様仏様井川様あああああ!おい優里!これが女子だぞ!見習え!」  起き上がった智裕は井川の背中をポンポンと叩きながら「じゃ、頼むな。」と笑い教室を出た。 「あーあ…乃亜ぁ…頑張りなさいよー。」  井川は数秒経ってから事の重大さに気が付いて、その場にしゃがみこんだ。

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