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憧れのユイさん②
「こんにちは、ちょっといいかな?」
智裕と今中は声のした方を見上げて「こんちわー」と適当に挨拶をしようとしたが、声が出ないほどに驚愕した。
智裕は頭が真っ白になった。
「ごめんね、ストレッチの邪魔をしてしまって。」
「……あ、あ……あ……。」
「決起集会以来だね、松田くん……あ、松田くんは2人いるから…智裕くん?それともまっつん?」
「は……は、あ……は……。」
智裕は「はい」という2文字すら出てこない。
それだけ信じられないことが今目の前で起きていた。
「あ、あの……もしかして、ス、スピンズの由比 投手、で、ですか……?」
今中も声を震わせながらゆらりと立ち上がった。
「ああ、僕のこと知ってくれていたんだ。ありがとう。」
「うわーーーーー!本物だあぁぁぁぁぁぁ!」
先月の決起集会の時はスーツにオールバックとフォーマルな出で立ちだったが、今日はその黒髪を下ろして爽やかなショートヘアに白い半袖Yシャツと濃いグレーのスラックスというラフなファッションの由比壮亮 だった。
由比を神の如く崇めている智裕は180度の開脚をしたまま小刻みに震えていた。顔は相当間抜けな顔。
「あ、あの!握手してください!」
今中も大投手を前に大興奮し、由比の真正面に立ち手を差し出した。
「ははは、いいよ。君は松田くんのチームメイトかな?」
「俺、3年の今中です!キャッチャーやってました!部は引退しましたけど、捕手に人手が足りなくて松田の練習を手伝ってます!」
「そうなんだね。智裕くんは良い先輩に恵まれているんだ。」
「うわぁ……これが『ゆいすけスマイル』かぁ…。」
由比壮亮、現役の頃からの愛称は「ゆいすけ」で、この爽やかな笑顔は「ゆいすけスマイル」と称されてファンから愛されていた。
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