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ツワブキさんが欲しいもの②

 智裕たちは世界一奪還を掲げ、世界を相手に戦っている真っ只中に迎える拓海の誕生日。  智裕はそれを知ったら謝ったり落ち込んだりするかもしれない、野球に集中して欲しかった拓海は、秋季大会が一段落したら何となく切り出そうと思っていたのだった。 (それに……俺も……。) 「俺も智裕くんの誕生日……ホームページ見て知ったし…。」  拓海は恋人の誕生日をU-18日本代表選手プロフィールで知ることになった。それで少しだけ拗ねてしまっていた。 「ごめん……ホントーーーーーにごめん!」  智裕はまたギューっと抱きしめた。 「痛いよぉ……智裕くん……もう大丈夫だから……俺も…ごめんなさい。」 (智裕くん、大事な時期なのに…黙ってたから逆に気にかけさせてしまった……。)  自己嫌悪に(おちい)った拓海は、深いため息を無意識に吐いてしまった。  それが呆れのため息だと勘違いした智裕は、バッと拓海から離れた。智裕の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。 「あーもー…やだ……俺、彼氏失格じゃん……最悪だな…。」 「え……そんなの…。」  智裕は手の甲で涙を拭うと、スッと立ち上がった。そして口元を手のひらで押さえたまま、こもった声で告げた。 「やっぱ俺……拓海さん大事に出来てないな……愛想尽かされてもしかたねぇよ……ごめん。」  そのまま拓海に背を向けて保健室を出ようとした。

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