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ツワブキさんが欲しいもの⑥
拓海との逢瀬を楽しんだあと、智裕は昇降口を出てすぐにスマートフォンを取り出した。そして通信アプリの音声通話をかける。
相手は「由比壮亮」。
4コールほどで相手が応対し繋がった。
『もしもし、由比です。』
「あ、あの!第四高校2年の松田です!お疲れ様です!急な、お、お電話申し訳ありません!」
電話だというのに相変わらず緊張してビシッと直立して90度にお辞儀をした。
『うん、大丈夫だよ。どうしたのかな?』
「あ、あの!俺、ちゃんと由比コーチの指導を受けたいです!なので、週末の自主トレーニングと野球教室のお手伝いのお話、是非、お願いします!」
そう言ってまた90度お辞儀をする。目の前に由比がいるかのように智裕は頭を上げることが出来ずに目をギュッと瞑った。
『ありがとう、凄く助かるよ。でも急にどうしたの?秋季大会のこともあるからって保留してたのに。』
「俺、絶対アメリカで先発として……エースとして、マウンドに立ちたいんです!俺が、俺が『日本のエース』だってことを証明したいんです!今までずっと八良先輩の背中ばかり追いかけてましたけど、それじゃダメだって…そんなことじゃ絶対に悔いが残るって思ったから、だから今の俺の100%以上の力が必要なんです!」
『…………智裕くん、それじゃ…まるで…………。』
由比は苦々しい声だったが、すぐに訂正していつものように穏やかな声になった。
『うん、君の熱意は伝わったよ。ビシビシいくから、よろしくね。』
「はい!お願いします!では失礼します!」
『じゃあ週末楽しみにしてるね。』
由比の方から通話を終了させて、スピーカーからはツーツーと音がした。
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