877 / 1000

マツリちゃんのイヤイヤ期③

 それから買い物の荷物を冷蔵庫などに片付けたら急いで松田家に向かった。  インターホンを押すと、智之がドアを開けてくれ、それと同時に中から茉莉の楽しげな声が聞こえてきた。 「茉莉ちゃんのとーちゃん、なんか疲れてる?」 「う、ううん、大丈夫だよ。」 「顔色悪いぞ?」  さすが智裕の弟、拓海の少しの変化によく気がつく。  智裕も人をよく見ているのか体調面にはよく気がつくが、自分に向けられる気持ちや好意にはとことん鈍感だ。  いつものダイニングテーブルの所へ行くと、帰宅したばかりだろう松田父が仕事着のまま(松田父は電気工事士)茉莉と遊んでいた。  茉莉は何故か少し古いグローブを手にして、それを嗅いでは「くちゃーい!」と言うのを繰り返して楽しんでいる。 「うえぇぇ…それにーちゃんの昔のグローブじゃん!そんなのよく嗅げるなぁ茉莉ちゃん。」 「くちゃーい!」  拓海は最近、茉莉が食べ物で遊んだり、散らかし放題にしたり、しっかり躾けなければいけないから叱って泣かせて「いやいや」と言われ、こんなに楽しそうな茉莉を見るのが久しぶりだった。  そして同時に親としての自信が無くなって俯いてしまった。 「石蕗さん、ちょっと疲れてるわね。」 「あ……そんなこと。」  横から松田母が声をかけてきたので否定したが、松田母は拓海の背中をさすって明朗に笑う。 「この年の子供は例外なく怪獣よ、疲れない方がおかしいわ。明日の日曜日はお休み?」 「はい……。」 「今日明日、茉莉ちゃんはうちで預かるから、たまには1人でのんびりと羽を伸ばしなさい。いつもお仕事だったり付き合いだったりで預かることはあるけど…それじゃあパパは休めないものね。」 「そんな、ご迷惑じゃ……。」 「いいのよ、育児も仕事も息抜きが必要、でしょ?」  拓海はその優しさに胸が一杯になった。そして、「ありがとうございます。」と笑った。

ともだちにシェアしよう!