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ツワブキさんの不安②

「拓海さん…。」 「智裕、く……んっ。」  気になることを口に出す前に口を塞がれた。舌を絡め取られて、舌先で口内をなぞられて、翻弄されてしまう。 「ん……はぁ……ともひろ、くん…。」 「拓海さん…可愛い、好き…。」  ぎゅっと抱きしめられると、不安も嫉妬も溶けてなくなる。智裕の熱っぽい瞳は嘘ではないと拓海には解るから。 (練習だってきっとキツくてヘトヘトなのに……こうしてまーちゃんが寝た後に会いに来て…俺のワガママきいてくれて……。) 「拓海さん……壮行試合の先発、明後日わかるんだ。」  智裕は拓海の耳元で真剣な声で囁いた。しかしその声には不安も入り混じっている。  智裕はいくら天才だと称されていてもその実は計り知れない努力を重ねなければ常に不安を拭えなかった。 「先発の日……観に来て欲しい。」 「え……。」 「これは俺のワガママだから、無理はしないで。だけどね……。」  そのまま智裕は拓海の耳たぶにキスをした。 「んぅ……っ。」 「俺が頑張れているの、拓海さんがいてくれるから。俺の頑張る理由も、拓海さんだから。絶対に、絶対に……今度は負けないから。」  少し距離が離れて、拓海の視界に智裕の顔が映った。 (あ……カッコ、いい……。)  ドクン ドクン ドクン  智裕の真剣な眼差しに魅入られた。 「強くなった俺を拓海さんに、見ててほしい。」  拓海は愛おしいその人を抱きしめた。 「智裕くんは、世界で一番、強くてカッコいいよ。」 (そうだ……大丈夫…智裕くんは、ここにいる……。)  また智裕のスマホが振動した。  メッセージの送信者は「由比壮亮」。

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