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第5話

気持ちが沈んでしまう前にと、急いでリビングに戻り、さっそく動き出す。 今日、肩から提げてきたバックから、ごそごそと道具を取り出していく。 ごみ袋…ビニール紐…それから、たたんで詰め込んであった大きめのバック。 僕の借りているアパートの部屋と比べて、啓吾さんの住まいは広いし部屋数もある。その中で僕が使っていたのはこのリビングと台所などの水回り。それから寝室。どこから始めるか少し考えて……まずは寝室からかな。 廊下に出て突き当たりが寝室。ここにはクローゼットが備え付けてある。時々お泊まりする僕のために、啓吾さんは収納スペースを分けてくれていたから、まずはそこの片付けから始めよう。 部屋に入ってクローゼットの扉を開ける。 啓吾さんと付き合って1年半……えーと、その……身体を重ねるようになってから1年と少し。たくさん服をおいているような気がしてたけど、改めて見ると意外と少なかった。 そういえばサイズは大きめだったけど、啓吾さんの服を借りることが多かったな。 啓吾さんの服を着るのは、何だか彼に包み込まれてるようで嬉しかったし…… それに啓吾さん自身も、僕に服を貸すことに抵抗感はなかったみたいだし……そのせいかな。 まあ、今となっては、荷物が少ないのはありがたいよね。 バックに詰め込んでいくと、半分くらいで全部収まった。 「よし、次!」 勢いよく立ち上がったところで、ふと、目がベッドへ向く。 ───そっか。もうここで寝ることもないんだなあ。 考えてしまうと胸がぐうっと押しつぶれそうになって……そんな自分をごまかすように、ダブルベッドにえいっと跳び込んだ。 「ふかふかー。きもちいー…」 こんなにふかふかのベッドなのに、初めて横に並んで寝た夜は、ドキドキしてよく眠れなかったなあ。 思えば啓吾さんは、僕の「はじめての人」だった。 何にも分からなくて、怖がってばかりだった僕を根気強く宥めてくれて……好きな人と繋がることの喜びを教えてくれたのは啓吾さんだった。 僕を抱いてくれたこのベッドで、明日からはあの人を抱くのかな。 とっても綺麗な人だった。 横顔しか見えなかったけど、笑顔が素敵で、控えめなメイクでも十分きらきら輝いていた。淡いピンクのワンピースがとっても似合っていて、テーブルの上のカップにそえられた指はすんなりと美しかった。 ───かなわない。 こんな素敵な人に、勝てるわけがない。 敗北感でいっぱいになった。 それに、何より。 何より、テーブルの向こう側でちょっと照れたような啓吾さんの笑顔……あんな顔、見たことなかったから…… ───邪魔者の僕は消えることに決めたんだ。 あー、駄目だ……このままじゃ、泣いちゃう…… 僕はベッドに残っている啓吾さんの匂いをいっぱいに吸い込むと、起き上がった。 泣くのは家に帰ってからだ。 今は自分のやるべきことをしよう。 新たな気持ちでバックを握りしめると、もう一度リビングへと向かった。

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