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第8話
────さて。
大体片付いたところで、もう一度部屋を回って最終確認をする。
洗面所で歯ブラシを捨てて、ベランダの洗濯物を確かめて……よし、大丈夫だ。忘れ物はない。
最後にスマホを取り出す。
啓吾さんからのメールが入ってるフォルダを削除。
電話帳のデータを削除。
一緒に撮った写真のデータも削除。
さくさくと事務的にこなして――はい、終了。
一つ一つ見ていけば、きっとまた考えてしまう。
考えれば消せなくなるから、この作業に気持ちは入れない。
「んー、終わったー」
大きく伸びをして、首を回す。
啓吾さんが出かけて1時間半。予定どおりにできてよかったな。
さあ、家に帰ろう。
来たときよりずいぶん重くなったバックと、処分するゴミを手にもって、玄関に向かった。
玄関には置き傘も靴もない。合鍵で施錠して、そのままドアについているポストに鍵を入れたら、おしまい。
バックを肩から斜めにかけ直し、靴を履くと、ポケットから鍵を取り出した。
犬のキャラクターのキーホルダーがついた鍵。
使うのもこれが最後だ。
ぎゅっと握って……僕は一歩、足を踏み出した。
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