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第13話
本当はずっと、誰かに聞いて欲しかったからだろう。いざ話をはじめると、言葉は止まることなく溢れだした。
誰にも内緒で、啓吾さんと付き合ってきたこと。
啓吾さんが他の人と会っていたこと。
一人で別れを決めたこと。
こっそり消えるつもりで荷物を片付けたこと。
結局見つかってしまったこと。
渡された紙袋。
それから、啓吾さんの悲しげな表情。
「うーん……──それってさあ、相手の女と付き合っているかどうかはわかんないんじゃねーの?」
「確かめてはないんでしょ?」
「うん……でも。あの日はね、久しぶりに二人で出かける約束してたんだ。楽しみにしてたのに、急に仕事で会えなくなったって言われて……」
「仕事だから仕方ないと思っていたら、実は女と会ってたと……」
「スーツも着てなかったし…それに、表情とかも…なんていうか…」
ちょっと照れたような…嬉しそうというか…
「……二人の言葉でいうなら、『幸せオーラが出まくり』って感じだった……」
「…………………………」
だからこそ、聞けなかったんだ。…答えはもう出ていると思ったから。
「……じゃあ、渡された紙袋は?中には何が入ってたの?」
それは……
「……まだ開けてない」
「え?何で?」
「……怖いから」
啓吾さんが最後にくれたもの。一体何をくれたのだろう…見たい気もするし、見たら終わりな気もする……
そもそも啓吾さんにしてみたら、あの日が『最後』とは思っていなかったはずだから。あの紙袋の中身も、特別に用意したわけじゃない。
もしも『あの人』にあげるつもりで用意したものを、つい僕に渡してしまっただけ、なんてことだったら……
それこそ、心を保てる自信がない。
思考はいつでも最悪を想定してしまう。
「今、どこにあんだ?家か?」
「………持ってる。バックの中」
ごそごそと袋を取り出す。
どうしたらいいか迷ったあげく、何となく持ち歩いてしまっている…
綺麗な水色の紙袋から、リボンのかかった小さな箱を出す。
「───悠希、開けてみろよ」
「へっ!?……いやいや、無理だよ。できないって!」
「無理でもなんでも開けろよ。このまま持ってたってしょーがねーだろ。大体お前は何でも考えすぎなんだよ!」
それは自分でも自覚があるけど…
「──開けて何が出たって結局、お前はぐるぐる悩むんだ。だったらここで開けて俺たちと一緒に悩めばいい。そのくらい付き合ってやるよ」
そう言うと、貴志は箱を手にとる。
しゅるしゅると音をたてて、リボンがほどかれた。
「───待って!開けるなら自分でっ……ちゃんと自分で開けるから!」
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