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第14話

貴志の手から受けとると、恐る恐る箱の蓋を開ける。すると中に入っていたのは… 「──箱?」 箱の中には、さらに黒い箱がすっぽり収められていた。不思議に思いつつも、その箱をさらに取り出す。蓋を開けて中を覗くと… 「────────えっ…」 三人が三人ともに息を飲んだ。 中には銀色に輝く指輪が一つ、入っていた……。 少し細めの華奢なデザイン。波をイメージさせるなめらかなカーブがかたどられた、キラキラ輝くプラチナのリング…… さすがに僕でもわかる……これはちょっとしたお土産で買ってくるようなものではない…… 「───これ、返さなきゃ。僕がもらっちゃいけないヤツだよ」 ただの大学生に過ぎない僕にはふさわしくない、見るからに高価な品物……やっぱり、あの人にあげるものだったに違いない……だとしたらこれは、一刻も早く返さなくちゃ…! 「……待って。とりあえず一度つけてみてよ、高瀬君」 ずっと黙っていた梨花ちゃんが、とんでもないことを言い出した! 「ダメでしょ!これ、僕のものじゃないし!」 「いいからっ!つけてみたら、きっと分かるよ」 ───何が? 腑に落ちないが、梨花ちゃんの勢いに押され、仕方なく指輪を手に取る。 「……どの指につけたらいいの?」 「高瀬君、右利きだよね。なら、左手の中指とか?」 左手の指を伸ばして、恐る恐る中指に通す…と… 「………はまらない」 中指の第二関節で止まってしまった…… 「やっぱり。なら今度は薬指につけてみて?」 えー……もういいんじゃない? 梨花ちゃんを見るが、有無を言わさぬ表情……仕方なく再度試してみる。 すると。 「─────入った」 僕の左手の薬指に、ぴったり合ってしまった。 「ほら。これ、高瀬君へのプレゼントだったんだよ」 「まさか……たまたまサイズが同じだっただけじゃない?」 「もー……ホントだってば……じゃあ、悪いけどちょっと私につけさせて?」 そう言って指輪を受けとると、僕によく見えるように指をかざして、右手の中指に通していく。 ────あ…… 「ね、ぶかぶかでしょ?いくら高瀬君が細身でも、女の子とじゃ、指のサイズが違うよ。相手の人はそんなに大がらだった?」 「…………」 あの人は華奢な人だった……細い指が印象に残っているほどに…… でも、それじゃあ……この指輪は…… 「あのね。このショップね、今女の子の間で話題なの。オーダーメイドでアクセサリーが作れるって。雑誌に取り上げられたこともあるんだよ。でも、とっても高いから、私たちみたいな学生じゃあ、買うのはとても無理」 そう言って指輪をもとに戻すと、黒い箱に描かれた金色のロゴを指ではじく。 「いくら相手が社会人だとしても、軽い気持ちじゃ買えないくらいの指輪だよ。これが答えかもしれないね」 「………………」 「────悠希、今そいつに電話しろ」 ────は? 「………無理だよ。番号、消去したし」 「じゃあ、メールは?」 「………それも消した」 「なら、会いに行くしかないな。ちゃんと話し合ってこい」 「そんなこと……!」 できないよ……とてもできそうにない。 だって、自分から別れたのに……啓吾さんにあんな悲しそうな顔をさせたのに……今さらどんな顔で会えばいいの? 「でも、このままには出来ないだろ?もしお前の考えてたことが誤解なんだったら、相手を傷つけてしまったことになるぞ。逆に本当なんだとしたら、そんな高価な指輪は今すぐ返すべきなんじゃねーの?」 それは、そうかもしれない。そうかもしれないけど、でも……でも……でも…… すると、ぺちっ!っと音がなって、僕のおでこにまたもや痛みが走った。 「────いたっ!……だから、痛いってば!」 「いいか。お前がぐるぐる悩んで悩んで悩みまくるヤツだってのはよく分かってるし、慎重なタイプなんだと言えばそうなんだろう。でも今回は駄目だ。これ以上時間かけて、ますますお前が弱ってくの、見てらんないんだよ……」 そう言って、貴志はちょっと困った顔をした。 「……ちゃんと会いに行けよ、悠希。大丈夫。お前ならきっと向かい合えるよ。それでもうまくいかなったら、そのときは俺たちがなぐさめてやるからさ」 ────がんばれ。 今度は優しく、ポンと頭に手をのせた。 梨花ちゃんを見ると、にこにこと笑って頷いてくれた。 ………たとえどんな結末が待っているとしても、今が一歩を踏み出すときなのかもしれない。うまくいかなかったとしても、僕にはこんなに心強い味方がいてくれるんだから…… 「分かった……僕、会いに行ってくるよ」 そう言って、僕は黒い箱をぎゅっと握った。 ……勇気が出せるよう、願いを込めて。

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