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第15話

駅から10分。静かな住宅地の一画に、啓吾さんの住むマンションはある。 講義が終わったらすぐに行ければよかったけれど、今日はあいにくバイトの日だったので、それを済ませてからの訪問になってしまった。 エレベーターで上がって廊下を進み、奥から2番目の部屋に向かう。表札には『長谷川』の文字。1ヶ月ぶりに訪ねる啓吾さんの部屋だ。 扉の前に立つと、とたんに不安が頭をもたげた。 勇気を出してきてはみたけれど、先に連絡をとっているわけではないし。もし、いなかったらどうしよう…… というか、いたとしてもやっぱりどうしよう…… 会えても会えなくても、どうしたらいいのか正解が分からない。 それにもし啓吾さんじゃなくて、その、あの人が代わりに出てきたときは……どうする? どうするって考えたら、胸が苦しくなるけれど……うん。そのときは。 そのときは、箱を渡すだけにして帰ればいい。それから、貴志に電話をしよう。 何があっても味方になってくれる友達がいるってことだけが、今の僕の唯一の支えだ。 「─────よし!」 震える指先で、インターホンを鳴らす。 ────ピンポーン。 場違いなまでに明るい音が、夜の廊下に響いた。 ─────────────── ─────────────── ─────────────あれ? もう一度、インターホンを鳴らしてみる。 ────ピンポーン。 変わらず反応はない。たまらず続けざまに3回鳴らしてみるが、どれも同じ…… 「………嘘。留守ってこと?」 せっかく勇気をふりしぼってきたのに、なんてタイミングが悪いんだ……! でも、仕方ない……連絡もせずに急に尋ねているんだし。約束をしようにも連絡手段をすべて消去したのは自分なのだ。 さて、これからどうする? 残業で帰りが遅くなっているのかな。 それとも今日は週末だし、飲みにでも行ってるのかも。 ……あ、もしかしたら、デートしてる? もう9時をまわったし、今日はこのままあの人の家にお泊まりとか…… 「………………」 頭をふるふると小刻みに横にふって、生まれてきた不安を追い払う……一人でぐるぐる悩んでたらダメだと言われたんだから。 そうだ。確かめるまでは最悪を考えない! ドアにもたれて携帯で確認する……うん。終電まではまだ時間がある。 とりあえずギリギリまで待ってみよう。 ちょっと寒いけど、ダウンを着てるし大丈夫だろう。 これで帰って来なかったら、終電で部屋に戻って、また出直し。……連絡手段がないのも、合鍵を返した――落とした?――のも、自分のせいだから、このくらいはしないとね。 夜が更ければ少しずつ寒さも増すだろう……啓吾さん、今、寒くないかな…… 掌にはぁーと息をかけてこすりあわせると、ダウンのポケットに突っ込んだ。 いつになるかは分からないんだし、待っている間はせめて、啓吾さんとの楽しかった思い出でも考えよう……心だけでも暖めたいから…… 廊下からは満月にはまだ少し足りない月が見えた。冬の澄んだ空気の中、月の光は優しく僕を照らしてくれた。

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