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第18話
───次の日。
目が覚めると、僕は啓吾さんの腕の中にいた。
まだ、啓吾さんは寝ている……
静かな寝息と規則正しく刻まれる心臓のリズム。抱きしめてもらうのは、安心するから好き。
少し前までは当たり前のことだったのに、幸せすぎてなぜか涙が滲んだ……
ベッドからそっと抜け出すと洗面所に向かう。
ぱしゃぱしゃと顔を洗うと、気持ちも少しすっきりする。歯も磨きたいところだけど、歯ブラシは出ていくときに捨ててしまった。
確か棚に何本か買い置きがあったはず。そこから一本借りようかな。
棚を調べようとして、ふと気がついた。
───歯ブラシが2本ある……
歯ブラシスタンドには、仲良く2本並んでいる……もちろん、僕の使っていたものではない。
何だかいたたまれない気持ちになって、結局歯ブラシは借りずにキッチンに向かった。
この1ヶ月、本当に何も作らなかったのだろう。冷蔵庫の中には卵しかなかった。
他にも何か……祈りつつ冷凍庫も開けると、辛うじてご飯が1膳分と刻みネギが保存されていた。
雑炊ぐらいなら作れるかな。二日酔いにもよさそうだし……
鍋を火にかけて出汁をとりつつ、食器を洗う。洗い終えたものは布巾で拭いて食器棚に戻す。
洗うものはたくさんあったが、あの日ごみ箱に入れた僕用の食器はもちろん1枚もなかった。
くるくるとお玉を回して、卵を入れるタイミングを窺いながら考える。
『彼女』にふられたという言葉。
でも、取り出されたのは僕の合鍵。
昨日、言ってくれた『好き』
並んでいた見たことのない歯ブラシ。
結局捨てられた食器。
そして、あの指輪。
何がなんだか分からなくなってきた……
啓吾さんはあの人が好きなのか……それとも僕を好きなのか……
「─────よし、できた」
といた卵を流しこむと、蓋をして火を消す。
うん。
とりあえず、一度帰ろう。
あの啓吾さんの様子ではすぐに起きることはなさそうだし、僕自身も、昨日から今朝にかけての諸々を整理する時間が欲しかった。
寝室に入ってバックをからうと、まだ寝ている啓吾さんにとりあえず声をかける。
「───啓吾さん?」
「───────」
返事はない。けど、気にせず声をかけていく。
「鍋に雑炊が作ってあるから。温めて食べてね」
「───────」
「昨日は泊めてくれて、ありがとうございました」
「───────」
「鍵はかけたら、ポストに入れておくね」
「───────」
「また今度、出直してきます」
「───────」
「───それじゃあ……さよなら」
音をたててしまわないように気をつけながら、僕はそっと寝室を出た。
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