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第19話

廊下を歩きながら、あの二人への報告を考える。 ちゃんと逃げずに会いには行った。でも、肝心の啓吾さんが酔っぱらっていて、話はできなかった。 結局、ぐるぐるは、ぐるぐるのまま……前進はせず。 ───これは、おでこにパチン!のコースかも。 あー……痛いの嫌なんだけどなぁ…… そんなことを考えていると、──ガタン!と大きな音が寝室からした。 「───えっ……」 思わず立ち止まって振り返ると、今度はドタドタと床の鳴る音がする……何?何なの? ガチャ!という大きな音を立てて、寝室の扉が勢いよく開いた。 ──中から、ぐっすり眠っていたはずの啓吾さんが現れた。 入り口に立って、真っ直ぐ僕を見る瞳。その目は驚いたように見開かれていた。 ………しばらく、沈黙。 お互い、身動きもできない。 ……どのくらい見つめあっていたのだろう。 耐えきれなくなくなって、僕から声を出す。 「………あのー……」 「───────のだ」 ……へ? 何と言ったのか聞き取れなくて、困惑する。 聞き返そうかと口を開いたとたん、すごい速さでこちらに向かって来た。 わわわっ。 その勢いに驚いて思わず目をつぶると… 「────え……?」 気づけばぎゅうっと抱きしめられていた…… 啓吾さんの腕の中に、僕の体はすっぽりとおさまってしまう。 えーと……あのー…… 「────本物だ……」 「……へ?」 「────夢じゃなかった……本物だ……」 「……………」 「────名前、呼んで?」 「え?……あのー」 「名前!」 腕の力がますます強くなる。ちょっと痛いくらいに… 驚いて直立不動のまま抱きつかれた僕は、身動きもできない。 「───啓吾……さん?」 「もっと!……もっと名前、呼んでよ…」 「啓吾さん……啓吾さん……」 求められるまま何度も何度も名前を呼ぶ。 呼べば呼ぶほど抱きしめる腕の力が強くなるようで… どうしたのかな… 子どもみたいにねだられて、僕より年上の啓吾さんが何故だか自分より幼く感じられて、すごく不思議な感じ。 もしかしたら、これが啓吾さんの素の部分なのかなぁ。 僕が本当の気持ちを抑えてたように、啓吾さんも本当の自分を隠していたのかな…… だとしたら僕…… 「────啓吾さん、手を離して」 「────っ!…………」 啓吾さんの体が、びくりと震えた。

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