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第20話

「啓吾さん、お願い……」 ためらっている啓吾さんに、再度促す。 ……すると。 小さく、すんっと鼻をすすってから、ゆっくりと息を吐き……そっと手を離してくれた。 よかった。 ようやく僕の手も自由に動かせるようになった。 啓吾さんが、名残惜しそうにそっと後ろに下がり、ぴったりくっついていた体が次第に離れていく。 ……あ、さみしい。 二人の間に生まれた隙間が、やっぱりさみしい……だから。 今度は僕が啓吾さんに抱きつく。 広い背中に手を伸ばして、ぎゅうっと……すると…… ふふ。 さっきの僕とおんなじで、今度は啓吾さんが固まってしまった。 子どもみたいに甘えん坊な今日の啓吾さん。今までに見たことのない姿だけど、そんな所もやっぱり好きだと思えるから。 だから僕だってぎゅってしたい。 このまま体が溶け合って一つになり、お互いの心まで全部分かり合えたらいいのに…… でも、それは無理だ……だって、今だって啓吾さんは困惑して、ずっと固まったままだ。 だから、気持ちはちゃんと言葉にしなきゃ。 「……啓吾さん……」 びくっ、と腕の中の体が震える。 大丈夫だから……しばらくそのまま聞いていてほしい。 「……ずっと……会いたかった…」 「……………」 「会いたく…て……会い…た……くて……」 あれ? 言葉にしようと思うのに、胸が苦しくて思ったようにしゃべれない…… 喉の奥に何かがつまってるみたいだ。 鼻の奥がつーんとして、あー、だめだ……我慢できない… ポロリと涙がこぼれると、啓吾さんの服に吸われて消えた。 「……ごめ…なさ、い……僕が、わが……ま…ま…」 勝手にいろいろ決めたから…… 相談もせず、確かめもせず……ただ現実から逃げ出したから……だから…… ……こぼれだした涙は、なかなか止まらない。 「……ふぇ……き、ずつけ、て……うぅ……ごめ、なさ……」 ……こんなやつ、嫌だよね。 うじうじ悩んで、女々しくて……そのうえ人を傷つけて……僕みたいなやつ、嫌われても仕方ないんだ。 だけど、だけど…… 「……僕…のこ、と……きら…、になら…な、で……」 ううーっと、嗚咽がもれる。 一番じゃなくてもいい。 好かれてなくてもいい。 お願いだから、嫌いにはならないで…… ───ぎゅっ。 離れていた啓吾さんの腕が、もう一度僕の体を包む……そして優しく優しく背中を撫でてくれた。 ───もう、いいよ。 そう言ってくれてるみたいで、また涙が出る。こんなに泣き虫で、あきれないでいてくれるかな…… 「………悠希、俺も……会いたかった…よ……」 あ、啓吾さんも涙声だ。 なんだ。二人とも同じだね……そう思ったら、ちょっと安心したから…… 「……大好き……」 素直に、気持ちがあふれだした…… …………あ。 抱き合っているから顔は見えないけど。 耳元で聞こえる微かな声から、啓吾さんが嬉しそうに笑ったのがわかる…… 「俺なんてもう、好きなんかじゃ足りない……愛してるよ」 囁くように言ってくれた言葉に、僕は耳まで真っ赤になる。 ……やっぱり、啓吾さんには敵わないや。こんなに嬉しい言葉を、さらりと言ってくれる…… それから啓吾さんは、1ヶ月前は素直に受けとめられなかったあの言葉を、もう一度言ってくれた。 「───今度はちゃんと、話し合おう」

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