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第23話
ソファの上に置きっぱなしになっていたバックから指輪の箱を取り出す。
僕のために用意されたのに、一度も自分のものと思えなかった指輪……勝手に誤解なんてしなかったら、今頃この指に輝いていたのだろうか。
「………どうぞ」
改めて、持ち主のもとへ返される……
啓吾さんは「ありがとう」と言って受け取ると、箱を手のひらの中におさめた。
「………きっかけはハガキだったんだ」
啓吾さんがぽつりぽつりと話しはじめた…
「30才を目前にして、やたらと『結婚しました』や『赤ちゃんが生まれました』の報せが来るようになってさ……最初はさ、俺だってかわいい恋人がいて幸せなんだぞーって、思ってたんだけど……」
啓吾さんは照れたように笑った。
「でもさ……だんだん、不安になってきたんだ……俺はこれから先もずっと悠希のことが好きだろうけど……でも悠希は違う。悠希はまだ若い……これから大学を卒業して、就職して、社会に出て……いろんな人と知り合っていけば、俺なんてたいした奴じゃない、ってことに気づくだろう」
「………そんなこと……」
「ないとは、誰にも言い切れないよ。だから、何か証が欲しかったんだ……」
そう言って、指輪の箱を撫でる。
「悠希が確かに自分の恋人だと……ずっとそばにいてくれるんだという証がさ。本当に結婚することはできないけど、たとえ真似事でも安心したかったんだ」
また、啓吾さんが笑ったけれど…今度はどこか寂しげな笑いだった。
「だから、この指輪は俺のエゴなんだ。ずるい大人の卑怯な自己満足なんだよ。こんなもののせいで、悠希が悩んだり苦しんだりすることはないんだ。だから……これは、はじめからなかったことにして、また、やり直せないかな…」
「──────」
「………悠希?」
「いやだ」
「………えっ?」
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