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第2話
キッチンは冷え冷えとしていた。
どうせ目が覚めてしまったのだ。せっかくだから温かいものでも飲もうか。
やかんに水を入れると火にかけた。
沸騰するのを待つ間、またあれこれと思考しはじめる。
悠希は昨日の自分を見て、どう思っただろうか…
酔っていたとはいえ、取り乱したあげくに涙さえ流した自分。
とても29歳の男のすることとは思えない。
悠希は俺のことを「大人」だと思っている。
───自立した完璧な大人、隙などない理想の人間。
自分はそんな人間にはほど遠いと分かっているが、悠希が俺にそれを求めるならばと「大人の男」であることを心がけてきた。
もし───もしも昨日の姿を見て、俺に幻滅したとしたら…
理想の相手が俺ではないと気づいたのなら…
もう一度、悠希が消えてしまうことがあったならば、もう自分は理性を保っていられないだろう。
泣いてすがって悠希の同情をかい、そばにいてもらうか。
それとも、逃げられる前に部屋に閉じ込めて、誰の目にも手にも触れさせないようにしてしまうか。
……いずれにしても、冷静でいられる自信がない。
寒さのせいだろうか…考えはマイナスの方向にしか進まない。
昨晩、あんなにキスをして、身体を繋げて、何度も名前を呼んでもらったのに……
たしかに愛されているのだという自信がなかった。
情けない。
情けないのだが…
湯が沸く前に火を消してしまう。
もう、お茶など飲む気になれなかった……少しでも早く、悠希の横に戻りたい。
そうすればこのもやもやとした気持ちも、胸をちくちくと刺す不安のトゲも、消えてなくなるかもしれないから……
冷蔵庫からペットボトルを取り出して水だけを飲むと、キッチンをあとにした。
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