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第3話

「───待って、啓吾さん!」 外出する支度を済ませて寝室から出てきた悠希はコートを着て、顔が見えないくらいぐるぐると首にマフラーを巻いている。 ……いくらなんでも、着すぎだよ。 苦笑しながら適当に巻いていたマフラーを直してやり、そのまま頬にキスもしてやる。 とたんに顔が真っ赤になり、まるでゆでダコみたいで笑ってしまった。「もう!」とふくれて見せるが、それすらかわいいんだから効果はない。 ふと見ると手袋もしている。 「───これはいらないよ」 両手からひょいと手袋を外す。 「えー……寒いの嫌だよー…」 抗議の声が上がるが、聞かないふりをして玄関のドアを開けた。 「───ひゃー!寒ーい!」 外に出た悠希が、マフラーに顔を埋める。本当に寒がりだなあ… 小さく身体を丸めた悠希の手をとると、しっかり握って自分のコートのポケットにお迎えする。 手を握ったせいで、悠希の顔はますます顔が真っ赤になったが、気にせずエレベーターに向かって歩き出す。 ……こういうのは照れたら負けだ。 「あのさあ、スーパーとは逆方向なんだけど、近所の公園、毎年綺麗に寒椿が咲くんだよね」 ───見に行ってみない? 誘ってみると、悠希は顔をぱあっと綻ばせた。 「うん!」と、嬉しそうにうなずく。 やっぱりかわいい自慢の恋人は、今日も笑顔が輝いていた。 end

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