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第6話
「──ねぇ、貴志は梨花ちゃんといつ、ファーストキスしたの?」
ぶっ!という音をたてて、貴志は飲んでいたジュースを吐き出した。
「あーあ、大丈夫?」
ごほごほとむせる背中を撫でてやると、
「……おまっ…なんっつー、こと……きく…」
涙目で苦情を言われるが、だってこんなこときける相手は他にいないんだ。
貴志は大学に入って初めてできた友達であり、県外から進学してきた僕にとっては、こんな相談のできる唯一の相手だ。
「……ごめん…ちょっと気になって」
昨日、長谷川さんの家で気づいた、僕の中の感情。
──長谷川さんとキスがしたい。
改めて考えるとちょっと恥ずかしいけれど、でも確かに僕の中にはそんな気持ちが芽生えてはじめているんだ。
じゃあ、そのためにはどうしたらいいんだろう…
自分からすればいいのかもしれないけど、そんなこと勇気がなくてできない。
いつものように、大人な長谷川さんのリードに任せて、自然とそんな雰囲気になるときを待てばいいのかな。
でも、それっていつなんだろう。
あとどのくらい待てばいいんだろう。
考え出すとそわそわして、心が落ち着かないんだ…
「……なにお前、そんな相手がいたの?」
「えっ、いや……そういうわけでは……」
そうだと、簡単には認められない……詳しく話ができないから。
長谷川さんのことは好きだけど、やっぱり男同士で付き合ってることを知られるのは怖いんだ。
もし、貴志に軽蔑されたら……
返事を濁してしまい、思わず目を伏せていたら……ぺちっ!っと音がなって、僕のおでこに痛みが走った。
「──ばーか。何も無理に話せなんて言わねーよ。気ぃ、つかうな」
言葉は荒いけど、優しい顔で言ってくれた。
「……ありがとう」
「おう。……でもさっきの質問には答えらんねーよ……んなの、ペラペラしゃべったら、梨花にボコボコにされるわ」
そんな場面を想像したのか、とっても嫌そうな顔をする貴志に思わず笑ってしまう。
「まあ、そうじゃなくても、そんなの人それぞれだろ。会ってすぐするやつもいれば、何ヶ月、何年てかかるやつもいるだろーし」
──あんま気にすんな。自分は自分だろ。
そう言って、また笑った。
どんどん二人の距離が縮まれば、そんな日も自然とやって来る…
焦らないでいよう。
そのときは、そう思えたんだ。
でも……
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