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第7話
──何かおかしい。
ここのところじわじわと感じていた違和感が、はっきりしたものになったのは、帰りの電車の中だった。
長谷川さんの家に行くのも3回目で。
ドキドキにも少しずつ慣れてきて、それで気づいたんだと思う。
初めて家を訪ねた日からこれまで、自宅だけでなく外でも会っていたんだけど…いつからだろう。ずっと何だか変な感じがしていて……
何だろう……何だろう……
いろいろ考えて考えて……そしたらすとんと胸に落ちるものがあった。
──そうだ。物足りないんだ。
でも何が?
会って、ご飯を食べて、おしゃべりをして……今までと、何も変わらないけど……何が足りないの?
「んー……わかんない……」
終電も近い時間だけあって、車内には人が少なく、僕のひとり言を気にとめる人もない。
何だろう……何がこんなにもやもやさせるんだろう。
答えはすぐそこにありそうなのに、なぜか手に届かない。
たまらず頭をぐしゃぐしゃにかきまぜて、そこではっと思い当たった。
───手?
思わず自分の手のひらを見る。
……ああ、そうだ。手だ。
長谷川さんが触ってくれなくなったんだ。
少し前までは、何かにつけて髪を撫でてくれたり、頬に触れてくれたり……あの大きな手で僕を触ってくれていたのに。
それがぴたりとなくなってしまったのだ。
……よく考えてみれば、今日だって僕に指一本触れてくれなかった気がする。
「──何で?」
今まであんなに触ってくれていたのに、どうして急に……?
理由が分からなくて、胸がざわざわする。
何か……何かあったのだろうか。触りたくなくなるようなことが。
それとも……
もしかして嫌われてしまったのだろうか……
───いや…そんなはずはない……
今日だって優しかったし、笑顔だって……
長谷川さんの笑顔を思い出そうとするけれど、頭の中にもやがかかって少しも思い出せない…
ますます苦しくなって、じわじわと視界が歪んできた。
涙が溢れ出す寸前で、車内のアナウンスが降りる駅の名前を呼んだ。
慌てて立ち上がり電車から降りると、ホームに降り立つ。改札を抜けて家に向かいながら、ごしごしと目を擦る。
どうしよう……どうしよう……
頭の中は不安でいっぱいで……よい解決方法も思いつかず……
僕は重い足を引きずりながら歩いた。こんなに家が遠く感じたのは初めてだった。
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