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第3話

18歳の春、僕は住み慣れた町を離れて県外の大学に進学した。 僕の下にはまだ妹弟が二人いて、両親も応援してくれたとはいえ、県外での進学が経済的な負担になることは分かっていた。だから引っ越しを済ませるとすぐ、バイトを探し始めたんだ。 求人案内を見て見つけたのは、コンビニのバイト。 僕の借りた部屋や大学からは3駅ほど離れているけれど、駅の目の前にあって通うのには困らなさそう。 まだ土地勘の全くない僕にはありがたいかも…… とりあえずここでしばらくバイトして、慣れてきたら他のバイトも考えてみよう……そう思って始めた仕事だった。 バイトを始めて、2週間。 大学にも仕事にも少しずつ慣れてきて、周りのことまで見えるようになってきた頃、あるお客さんのことが気になり始めた。 いつもスーツを着ているからサラリーマンなのかもしれない。 歳は……20代後半くらいかな? すごくスラッとしていて、背は僕より高い。 顔はうらやましいくらい整っていて、きっと女の子にもモテるんだろうな……つまり、イケメンだ。 それだけでも十分記憶に残りそうだが、それに加えてもうひとつ、印象に残る理由がある。 ───この客は、何故か毎日きっかり午後7時15分に店に来て、決まって僕のレジに並ぶのだ。 帰宅ラッシュに伴って、コンビニに寄って帰るお客さんの波が少し落ち着いた頃、ちらりと壁にかかった時計を見ると、時刻は7時10分。 ………あ、そろそろだ。 そう思うとかえって気になってしまい、チラチラと入り口を見てしまう。 やっぱり今日も来るのかな……それともたまには来ないこともあるのかな…… ……あと、3分……2分…………1分…… 「いらっしゃいませ、こんばんはー!」 入り口に近いレジを担当していたバイト仲間が挨拶する声。 思わず入り口に目を向けると──やっぱり今日もだ。 『7時15分の人』が、いつものようにスーツをきっちり着こなして、来店していた。 このあとどう動くのかは、目で追わなくても分かる。 まずは、雑誌コーナーに行くと何冊か手にとって……でも買うことはない。そのままお酒やジュース類のケースの前を通って、お弁当のコーナーへ。一応見るけれど手に取ることはなくて、結局そのまま…… 「いらっしゃいませ」 僕の担当するレジへやって来るんだ。 「煙草一箱ください」 「はい。何番ですか?」 「32番を」 「32番ですね……450円です」 「…………」 「しるしでいいですか?」 「はい」 「500円お預かりしましたので、50円のお返しです。ありがとうございました!また、お越しください」 煙草とお釣りを受けとると、その人はちらりと僕を見て「ありがとう」と言いながらにっこり笑って店から出ていった。 「………ありがとうございましたー…」 で、僕はというと、その無駄にキラキラした笑顔に何故かドキドキして困ってしまうのだった。 ……イケメン、恐るべし。 来店時刻も、買うものも、出す金額も全く同じで……こうして『7時15分の人』は僕の頭の中にすっかりインプットされてしまったのだった。

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