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第12話
すべてを話し終わると、ふぅっと小さく息を吐いた。
こんな話、今まで誰にも話したことはない。少し前まで、啓吾さんとの関係は秘密にしていたから。
改めて振り返って、そのときの想いを口にして……何だか思った以上にすっきりとした。
それに、やっぱり僕は啓吾さんのことが好きなんだなと、再確認できたような気がした。
「……二人はきっと、出会ったときから、お互いに魅かれていたんだろうね」
内村さんはそう言って、優しい笑顔で微笑んだ。
思えばこんなにいろいろ話ができたのも、内村さんがうなづいたりあいづちをうったりして、僕が話しやすくなるようにしてくれたからだと思う。
やっぱり内村さん、素敵な人だなぁ。
「そうですか?でも、時々自信がなくなるんです……僕じゃない人と一緒にいるほうがいいんじゃないかって…」
「どうしてそう思うの?」
「だって、啓吾さんは優しくて……頼りになって……すっごく大人で……僕にはもったいないような人なんです」
「うーん……確かに、かっこいい人だよね」
「ですよね。でも、僕はダメなんです……全然普通で平凡な大学生だし……ちっとも大人にはなれていないし……啓吾さんにはふさわしくないって……もっと素敵な人がいるような気がして……」
だから、女の人と一緒にいるのを見ただけで……他の人と笑っている姿を見ただけで、目の前から消えようなんて考えてしまった。
結果、啓吾さんをひどく傷つけてしまったことを、自分のした浅はかな行為を後悔はしているけれど……でも、根本的な不安がすべてなくなったわけではないんだ。
「……高瀬君は、やっぱりかわいいね」
「え?」
内村さんは頬杖をつくと、ますます優しい笑顔で僕をまっすぐ見つめた。
「好きな人のこと、大事に思ってて、一生懸命で、何だか見てるとほっこりするよ。そんなところがきっと、長谷川さんを惹きつけるんだろうね……僕には君のかわいらしさが羨ましいよ」
「ええっ!?」
……びっくりした。
まさか自分が、内村さんみたいに小さくてほわほわした雰囲気をもった、まさに「かわいい」という表現がぴったり似合う人から「羨ましい」と言われるなんて…!
「羨ましいなんて、そんな……内村さんのほうがずっとかわいいし、田中さんだって内村さんのこと、大切にしてるじゃないですか!」
たった一度しか会ったことないけれど、でも啓吾さんや僕を見るときと内村さんを見るときでは、全然瞳が違ってた……すごく優しい瞳で内村さんを見ていた。
田中さんは内村さんのこと、とっても好きなんだと思う。
それなのに、内村さんが僕のことを羨ましがるなんて……
「………ありがと。そう言ってくれて」
内村さんはまた笑ってくれたけれど……なぜかそれがどことなく悲しげな笑顔で、見てるこちらの胸がぐっと苦しくなるようだった。
どうしてそんな、泣きそうな顔をするのだろう……何か話しかけようかと思ったが、内村さんのほうが先に口を開いた。
「そろそろ帰ろうか。あんまり遅くまでいると、長谷川さんが心配するかもしれないしね」
「……え……あ……はい」
内村さんが伝票を手にして立ち上がろうとしたとき…
「──────あの!」
思わず、声を上げて引きとめてしまった。
内村さんは少し驚いた表情で、でも、もう一度座り直してくれた。
「……あの……またいつか、こんなふうに会って、お話しできませんか?」
「……え…?」
「僕の周りに、同じように同性と付き合っている人はいないんです。今みたいにいろいろと話したり相談したりできる人がいると嬉しいんですけど…」
友人の貴志や梨花ちゃんに話をすることはあるけれど、やっぱり同じ立場の人と話ができるのはありがたいと思う。
内村さんはとってもいい人だし、啓吾さんの知り合いの恋人だし、いろいろと話がしやすいと思って……僕の勝手な考えだけど……
内村さんはどう思ったか心配でちらりと様子を伺うと、彼はとってもキラキラした瞳で僕を見つめ返した。
「うん!こちらこそ、よろしく!じゃあ、連絡先を交換しようか」
そう言って嬉しそうに携帯電話を取り出してくれた。
……よかった。
相談相手が欲しかったのはもちろんだけれど、何故か悲しい顔を見せた内村さんのことが、ほうっておけない気持ちもあったから…
すると、内村さんのほうからも、僕に提案をしてきた。
「……ねえ、よければこれから高瀬君のこと、『悠希君』って呼んでもいい?」
「あ、はい!じゃあ、僕も『葵さん』って呼んでもいいですか?」
「うーん……それは、ちょっと…」
「えっ?」
「よかったら僕のことも、君付けで呼んでほしいんだけど…」
「……『葵君』って呼ぶってことですか?」
「うん!」
……内村さんは僕より年上だし……社会人だし……「葵君」なんて呼べないよ……って思うけれど、僕を見る瞳はますますキラキラ、期待に満ちていて……
「───わかりました。また後でメールしますね、葵君」
僕の返事を聞いて内村さん……じゃなくて、葵君は嬉しそうに頷いたのだった。
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