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浮かべる

「……あ、月」 (ホントだ……今夜は満月だね) 「綺麗な真ん丸……お団子みたい」 (はは……悠希は甘いもの、大好きだね) 「…………」 (ほら、そんな空ばっかり見てたら転ぶよ?) 「───わっ!………危なかったぁ……」 (だから言ったでしょ?……手、繋ごっか) 「…………」 (…………) 「…………」 (…………) 「………啓吾さん…」 (………うん…) 「………会いたい」 (…………) 「………会いたいよ…」 (…………) 「………会いたいのに………」 (………ごめんね、悠希……) ふっと、目が覚めた。 電気を消した寝室は月明かりでぼんやりと照らされている。 ぼうっとした頭は、夢と現実がごちゃごちゃのぐちゃぐちゃで…… ふと目線をあげた先……カーテンの隙間から、淡く輝く満月がぽっかり空に浮かんでいた。 ───きれい。 その冴えざえとした光を見つめていたら……次第に視界がぼんやりと滲んできた。 目蓋を擦って、一つ深呼吸をする。 ………大丈夫。僕は一人でも歩いていける。 いつでも啓吾さんは心の中にいて、いつでも声を思い出せる。 だから大丈夫。 強くならなきゃ……強くなって、ひとりで歩いていかなくちゃ…… ぎゅっと目をつぶって、ぐっと口唇を噛む。 ───よし。 カーテン、閉め忘れてる。ちゃんと閉めておかなきゃ。 ベッドから降りて窓辺へ行こうと身体を半分起こすと… 「………悠希…どこ行くの?」 背中から温かいものに包み込まれた。びっくりして振り返ると… 「───あれ?啓吾さん?」 「こんな寒い夜にそんな格好でうろちょろするなんて……風邪ひくよ」 そう言って僕の身体を抱きしめた啓吾さんも、僕も、何も身に纏っていない生まれたままの姿で毛布にくるまっていた。 ……啓吾さんはちゃんと横にいた……ちゃんとそばで眠っていたんだ…… じゃあ、さっきのは、夢? 「………どうしたの?ぼんやりしてるよ?」 「──あ……ううん、ちょっと昔の夢を見ただけ…」 ちょっと昔の夢……僕がひとりぼっちだったときの夢。 頭の中でしか啓吾さんに会えなかったときの夢。 すると啓吾さんは何にも聞かずに僕の目にたまったままの涙を拭って……ぎゅっと胸に抱き込んでくれた。 「怖い夢だったの?」 「うん……怖い夢。怖くて悲しい夢」 「そっか……大丈夫?」 「……うん。絶対正夢にはならないから、大丈夫」 啓吾さんはずっとそばにいてくれる。 だから大丈夫…… 「啓吾さん…」 「………ん?」 「あのね……あの……例えば、あの、月と地球みたいにね、ずっと変わらず……僕と一緒にいてくれる?」 「ああ、もちろん。あの月のように……姿が見えなかったとしてもちゃんとそばにいて、悠希のことを想ってるよ」 そう言って微笑んでくれた啓吾さんの顔は……月明かりに浮かび上がった啓吾さんの顔は……涙が止まらなくなるくらい神々しく見えて、胸が震えてしかたなかった。 end

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