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第3話

悠希から受け取って運んできたケーキの箱を冷蔵庫におさめると、ほっと一息。 片手にケーキの箱をもちながら10分歩いて、鍵を取り出して、ドアを開けて……ケーキを傾けてしまわないかドキドキしながらの帰宅だった。 これで準備は良し! 悠希はバイト先で軽く夕食は食べてくるから、俺も何か簡単に作って食べることにしよう。 冷蔵庫をのぞいて、棚を確認して。余りものでパスタと野菜スープを作ることにする。スープは多めに作っておいたら、帰ってきた悠希も食べるかもしれないし。 もう一度冷蔵庫を開けて、野菜室から余っていた野菜をいくつか取り出していると、さっき入れたばかりのケーキの箱が目に入ってしまう。 今年のケーキは悠希のバイトしているコンビニで注文した。 有名店のものでも専門店のものでもない、普通のコンビニケーキ。悠希はどう思うか、提案した後顔色をうかがっていると「そのケーキ、僕が選んでもいい!?」と嬉しそうにおねだりしてくれた。 次の日、バイト先からもらってきたパンフレットをのぞきながら、あれでもない……これでもない……と、悩みに悩んで選んだのがこのケーキだ。 丸いスポンジケーキにたっぷりと真っ白い生クリームがのっていて、その上には真っ赤な苺が並んでる。真ん中にはチョコで作られた教会と砂糖菓子のサンタクロースの飾り――悠希が選んだのは定番中の定番といえるケーキだった。 選んだあとで「啓吾さん、甘いの苦手だけど……一緒に食べてくれる?」なんて上目遣いで追加のおねだりをされたら、断る理由なんて思いつかない。 もちろんすぐに「食べるよ」と返事した……ブラックコーヒーと、あらかじめ買っておいた胃薬があればなんとかなるだろう。 悠希が一緒でなければ夕食は早い。さっさと食べ終わると風呂に入って、髪を乾かして、ソファーに座る……前に、寝室に移動する。 クローゼットを開けて、悠希が使わない衣装ケースの奥から袋を取り出した。 ……よかった。どうやらバレていない。 取り出した袋を抱えると、俺はいそいそとリビングに戻った。

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