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第4話

取り出した袋をソファーに置くと、その隣に座る。クリスマス仕様の包装紙に包まれたそれは、もちろん悠希へのプレゼントだ。 去年贈ったプレゼントは使ってもらえなかった分、今回は何を贈るかかなり悩んだ。悩んだ結果がこれだ。 袋の中身はパジャマ。 触るともこもこして、冬でも暖かい素材が気に入って買った。寒がりな悠希のことだから、喜ぶだろうと思って。 それに柔らかい色合いのミントグリーンとホワイトのボーダー柄は、きっと悠希に似合うだろう。 ……だが、これを選んだ理由はそれだけではない。 悠希が俺の前から消えようとしたあの日、玄関ですれ違った悠希の荷物はスポーツバッグ一つ分だけだった。1年半付き合って荷物はそれだけ……悠希はその荷物を軽々持って、俺のもとを去っていった。 まあ、それは俺のせいでもある。 この部屋に泊まる悠希に自分の服を貸すのが好きだったから。悠希は俺より体のサイズが小さいので、貸した服を着るとちょっと大きめで袖や裾が余ってしまって……それが恐ろしく可愛かったのだ。 そんなことをしていたから、悠希の荷物は増えることなく……だから一度荷物を整理するだけで、簡単に姿を消すことが可能になったのだ。 もう、あんな思いはごめんだ。謝ることも誤解を解くこともできずに失うなんて、絶対に嫌だ。 だから、この服はここに置いて帰ってもらう。で、どんどん悠希の荷物を増やしていくんだ。 そうすれば簡単には消えることができなくなる。 荷物を整理するのに時間がかかればかかるだけ、俺がそのことに気づく可能性も高くだろう。 このプレゼントには悠希への愛情と俺のずるさが込められている……大人の打算が感じられて、こんなことを知ったら悠希は嫌になるかもしれないが、そこは飲み込んで欲しい。 悠希がいなくなることは、俺にとっては死活問題なのだ。 そんなことを考えながら自分本位なサンタがプレゼントの袋を撫でていると、キッチンの方から音が聞こえた。 ……メールの受信音だ。 あわててキッチンへ向かうと、テーブルに置きっぱなしにしていた携帯を手にとってメールを確認する。 『今、マンションの入り口に着きました。  エレベーターに乗るね』 ……思ったよりも早い悠希の到着だ。 嬉しい誤算に玄関へと向かう足取りは軽くなり、思わずスキップでもしてしまいそうなテンションだ。 待て待て。浮かれすぎだ、俺。 今夜は俺がサンタになって、悠希を喜ばせるって決めているんだ。俺が喜んでどうする。 辿りついた玄関で深呼吸をしていると、ピンポーンとインターホンが鳴った。 「─────はーい…いらっしゃ……」 ドアを大きく開けるとそこには…… 「……あの……メリー、クリス…マス…」 恥ずかしそうに染まった頬よりもさらに真っ赤な帽子を被ったサンタが、もじもじしながらそこに立っていた。 「……………」 「……………」 「……………」 「………や……やっぱり、変?」 あまりの可愛さに言葉を失っていると、悠希が心配そうな声で尋ねてくる。それからサンタ帽の白い縁の部分を両手でつまむと、困ったときのハの字の眉になって上目遣いでこちらを窺う。その仕種も可愛くって! 「─────わっ!?」 悠希の手を掴んで玄関に引き入れると、ぎゅっと抱きしめた。 「変なわけ、ないよ。───いらっしゃい、サンタさん」 ───ホントこの子には敵わない。 今夜は俺がサンタになるはずだったのに、一足先にサンタがやって来てしまった。そしてそれが嬉しいんだから、もう、お手上げだ。 俺の反応に満足してうふふと笑うサンタが愛しくて思わずキスをすると、腕の中のサンタは帽子と同じくらい赤く頬を染めたのだった。 ───メリークリスマス! end

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