65 / 105
第2話
俺のグラスが空になっていることに気づくと、すぐに葵君はビールをつぎ足してくれた。
「悠希君、年末年始も帰省していたのに、また今週も帰ってるんですね。成人式は今日だったんですよね?」
「ええ。式は午後からで、夜は同窓会に出るって……今頃友達と飲んでいるだろうね」
「成人式、帰省している間にあったらよかったですね」
「俺のときは3日にあったぞ。うちは田舎だからな。葵んときは高瀬君と同じで、成人の日の前日の日曜日だったな」
「悠希の地元はそこそこ大きな街だからな。帰省に合わせなくても十分人が集まるんだろうな…」
「悠希君のスーツ姿、見たかったなー。長谷川さんは見たことあります?」
「出発する前に着て見せてくれたよ。大学の入学式のときにお父さんが用意してくれたんだって」
「……スーツに着られてそうだな」
「そこがかわいいんだって!誰だって最初は着慣れないもんだろ。葵君も成人式のときはかわいかったんじゃない?お前、見せてもらえなかったの?」
「え?……いや、成人式の後、うちに寄って帰ったから」
「………そ、そう……だった、ねー…」
「……ふーん。で?その感じだと、何だかその後、楽しいことがオマケでついてきたみたいだなー?」
「えっ……なっ、なんのことか、よく分かんねーなっ!葵!」
「うっ、うん!」
田中は空々しい返しをし、葵君は葵君で顔を真っ赤にして、横に置いていたお盆でぱたぱたと扇ぎ始めた。
……こいつら、成人式の後、イタしたな。どうせ葵君のスーツ姿に萌えたんだろ、田中めっ。その展開、うらやましいぞ!
そんなどうでもいいことを話していたら、俺の携帯電話の着信音が鳴った。と、ほぼ同時に、葵君の携帯も鳴った。
「あ、悠希君からメール!」
俺が持ってきたバッグから携帯を取り出している間に、ポケットに入れていたらしい葵君が先にメールを見た。
「ほらっ、ちょうどいいタイミングで、悠希君がスーツ姿の画像を送ってくれてるよ」
葵君が隣に座っている田中に画面を見せている間に、俺も自分の携帯を手にとる。どれどれ…どんな画像だ…?
画面を操作して、メールを開いて……そのまま、バッグを掴むと立ち上がった。
「長谷川?」
「長谷川さん?」
「─────帰る」
「「……え?」」
きょとんとする二人を置いて玄関に向かうと、急いで靴をはきドアを開ける。
「田中!葵君!今日はありがと!このあとは邪魔しないから、存分にイチャイチャしてくれ!」
「「ええ!?」」
葵君が驚きの声と、田中が怒りの声とを上げるのを聞きながらドアを閉めると、駅に向かって急ぎめで歩き出した。
ともだちにシェアしよう!