71 / 105

第5話

琥珀色のかたまりがゆっくりと口に運ばれていくのを、固唾を飲んで見まもる。 「………味、変じゃない?」 僕の不安な声に、啓吾さんは苦笑する。 「とってもおいしいよ」 手作りのゼリーを食べた啓吾さんの一言。 その表情に気を使っている感じがなかったので、ようやくほっとする…… あのあと、二人で夕食を食べて……今日のシチューも、とってもおいしくて。そう伝えると、啓吾さんもとっても嬉しそうに笑ってくれて。 ますますぽかぽかな気分になって、二人で「ごちそうさま」をした。 片付けが終わると、冷蔵庫に入れていた箱を出してゼリーを取り出した。 箱がしっかりしていてくれたからか、少し形が崩れたものもあったけど、ほとんど無事に収まっていた。 で、リビングのソファーに二人並んで座っているけれど、僕は啓吾さんの食べる姿が気になって仕方がない… 「……ゼリー、甘すぎない?」 「うん」 「……冷たいでしょ、寒くない?」 「平気だよ」 「……ちょっと固すぎたかなぁ?」 「いや、ちょうどいいよ」 「……………本当に、おいしい?」 「…………」 ついつい質問ばかりを繰り返していると、啓吾さんが僕をまっすぐ見つめて言った。 「大丈夫。お世辞じゃなく本当においしい。無理してないし、嘘も言ってないから安心していいよ」 ───心配なら、一口食べてみる? そう言ってゼリーをひとさじ掬うと、僕の口元に差し出した。 こ、これって「あーん」ってしろってこと!? ドキドキして……頭がぼーっとして……ぱくっと口に入れてから、気づいた。 「────────!!!!!」 苦─────いっっっ! 思わず涙目になった僕を見て笑うと、啓吾さんはキッチンに向かった。 甘いもの苦手な啓吾さんのためのコーヒーゼリーだということを、うっかり忘れていました…… 戻ってきた啓吾さんは新しいカップをもっていた。 「ほら、これ食べてみて」 またひとすくいすると、僕の口元に差し出したが、僕はそっぽを向いた。 えー……全部コーヒーゼリーなんだから、どれを食べても同じだよ…… 「……いらない。どれ食べても苦いもん」 「まあ、そう言わないで。お願い」 啓吾さんもなかなか引かない…… もー……仕方ないなあ…… 嫌々ながら口を開けると、スプーンが差し込まれる。 ─────────あれ? 「……甘い。」 何で? 思わず啓吾さんが手にしているカップを覗きこむと、それは僕の作ったゼリーではなかった。 「チョコートムース。作ってみました」 にっこり笑って種明かしをしてくれた。 スーパーで「手作りキット」が売ってたんだって。でも…… 「わざわざ作ってくれたの?」 僕のために? 「もちろん。だってバレンタインですから、『彼氏』にチョコをあげなくちゃね」 右手で僕の頬に触れると、ふにふにと摘まんで微笑む。 啓吾さんも、僕のためにチョコを用意してくれていたなんて…… 「………おんなじこと、考えてたんだ」 僕のつぶやきを聞くと、啓吾さんは嬉しそうに言った。 「俺たち『似たもの夫婦』なのかもね」 「!!!」 鏡を見なくても顔が真っ赤になったのが分かる。 ……は、恥ずかしいっ! 照れてる顔を見られたくなくて、僕はあわてて啓吾さんにぎゅーっと抱きついた。 ははは、と声に出して笑うと、啓吾さんもぎゅっと抱きしめ返してくれたのだった。 end

ともだちにシェアしよう!