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第5話
琥珀色のかたまりがゆっくりと口に運ばれていくのを、固唾を飲んで見まもる。
「………味、変じゃない?」
僕の不安な声に、啓吾さんは苦笑する。
「とってもおいしいよ」
手作りのゼリーを食べた啓吾さんの一言。
その表情に気を使っている感じがなかったので、ようやくほっとする……
あのあと、二人で夕食を食べて……今日のシチューも、とってもおいしくて。そう伝えると、啓吾さんもとっても嬉しそうに笑ってくれて。
ますますぽかぽかな気分になって、二人で「ごちそうさま」をした。
片付けが終わると、冷蔵庫に入れていた箱を出してゼリーを取り出した。
箱がしっかりしていてくれたからか、少し形が崩れたものもあったけど、ほとんど無事に収まっていた。
で、リビングのソファーに二人並んで座っているけれど、僕は啓吾さんの食べる姿が気になって仕方がない…
「……ゼリー、甘すぎない?」
「うん」
「……冷たいでしょ、寒くない?」
「平気だよ」
「……ちょっと固すぎたかなぁ?」
「いや、ちょうどいいよ」
「……………本当に、おいしい?」
「…………」
ついつい質問ばかりを繰り返していると、啓吾さんが僕をまっすぐ見つめて言った。
「大丈夫。お世辞じゃなく本当においしい。無理してないし、嘘も言ってないから安心していいよ」
───心配なら、一口食べてみる?
そう言ってゼリーをひとさじ掬うと、僕の口元に差し出した。
こ、これって「あーん」ってしろってこと!?
ドキドキして……頭がぼーっとして……ぱくっと口に入れてから、気づいた。
「────────!!!!!」
苦─────いっっっ!
思わず涙目になった僕を見て笑うと、啓吾さんはキッチンに向かった。
甘いもの苦手な啓吾さんのためのコーヒーゼリーだということを、うっかり忘れていました……
戻ってきた啓吾さんは新しいカップをもっていた。
「ほら、これ食べてみて」
またひとすくいすると、僕の口元に差し出したが、僕はそっぽを向いた。
えー……全部コーヒーゼリーなんだから、どれを食べても同じだよ……
「……いらない。どれ食べても苦いもん」
「まあ、そう言わないで。お願い」
啓吾さんもなかなか引かない……
もー……仕方ないなあ……
嫌々ながら口を開けると、スプーンが差し込まれる。
─────────あれ?
「……甘い。」
何で?
思わず啓吾さんが手にしているカップを覗きこむと、それは僕の作ったゼリーではなかった。
「チョコートムース。作ってみました」
にっこり笑って種明かしをしてくれた。
スーパーで「手作りキット」が売ってたんだって。でも……
「わざわざ作ってくれたの?」
僕のために?
「もちろん。だってバレンタインですから、『彼氏』にチョコをあげなくちゃね」
右手で僕の頬に触れると、ふにふにと摘まんで微笑む。
啓吾さんも、僕のためにチョコを用意してくれていたなんて……
「………おんなじこと、考えてたんだ」
僕のつぶやきを聞くと、啓吾さんは嬉しそうに言った。
「俺たち『似たもの夫婦』なのかもね」
「!!!」
鏡を見なくても顔が真っ赤になったのが分かる。
……は、恥ずかしいっ!
照れてる顔を見られたくなくて、僕はあわてて啓吾さんにぎゅーっと抱きついた。
ははは、と声に出して笑うと、啓吾さんもぎゅっと抱きしめ返してくれたのだった。
end
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