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第2話
───ダメだ、こんなとこで泣いちゃ。
隣のキッチンには啓吾さんがいるんだ。泣いてるとこなんて見られたら、心配かけてしまう…
両手の拳でごしごしと目を擦ったとき、大切なことを思い出した。
「─────あ……」
そうだ……僕の指には、きらきら輝く指輪がちゃんとつけられているんだった……
右手の人差し指で撫でると、いつもと同じ滑らかな金属の感触。
左手を持ち上げると、光を受けてきらりと輝いた。
大丈夫。
無意識に、指輪に向かって頷いた。
約束の証は今日も変わらず、この指にある。
「ずっと横にいてほしい」と……「一緒に生きてほしい」と……啓吾さんはそう言ってくれた。
この指輪がある限り、あの日の気持ちが変わっていないことを、僕は信じるんだ。
揺れていた心が落ち着くと、途端に僕を不安にさせた『違和感』が憎らしくなってきた……これがなかったら、今日だって啓吾さんと楽しく過ごして。ひなたぼっこだって満喫したのに。
むむむ。
何なんだよ、もー!
思わず黄色のクッションをグーで殴った。
ぼふっ!という感触とともに僕の拳が包み込まれる。
───────お……?
続けて数回くりかえしてみる。
───────おおお……
「………気持ちいい」
見ためどおり、もふもふした感触。
ちらっと啓吾さんの様子を伺うと、キッチンのテーブルで何かしていて、こちらには気づいていないみたい。
そろそろと手を伸ばして、クッションを抱き締めてみると…
「………ふわぁ」
思わず声がもれるほどふかふかで気持ちがいい。
さっきまで太陽の光を浴びてたからか、ぽかぽかしている。
ぎゅうぎゅうしていると、だんだん眠くなってきて……ふわわとあくびも出てきた……
さっきまで気を張っていた分、力が抜けてしまったのかもしれない……そのままずるずると寝そべると、ラグの長い毛足が僕の頬を撫でる……
ああ、どうしよう……
もう力が入んない……起き上がれないよ……
僕の意思に反して瞼はだんだん閉じていき、うとうととしていく……
もう、意識を手放す……という間際、人が近づく気配がした。
……あー…起きなくっちゃ……
……でも、もう動けない……
ふふっと笑って、髪を撫でられて、こめかみに唇の触れる感触。
「………やっぱり、買ってきて正解だったな」
そのまま僕の後ろに寝転ぶと、ぎゅっと包み込まれる。
これって、夢かな?現実なのかな?
うーん……どっちでもいいや。
だって幸せなんだもん。
啓吾さんと二人で野原でごろごろ昼寝をしているみたいで、心も体もぽかぽかなんだ。
目が覚めたら、ちゃんと啓吾さんに聞いてみよう。「これ、どうしたの?」って。
それから……一緒にひなたぼっこしようって誘ってみるんだ。
きっと、「いいよ」って言ってくれるはず。
それまでは、もう少し啓吾さんの夢を見ておこう……では、おやすみなさい。
end
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