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第2話
金曜日。
大学に行って、バイトに行って、へとへとになった悠希が家にやって来た。
学校は後期試験の直前で忙しいらしい。きついなら今夜は自宅に帰ったらよかっただろうに……でも。
「……少しでも、一緒にいたかったから」
なんて恥ずかしそうに俯くから、もう何だか堪らない気持ちになる。
軽めに食事をとって、一緒に風呂に入って、温まったままベッドにもぐり込んだ。
本当はどろどろに溶けてしまうくらい抱き合いたかったが、疲れた体に無理をさせたくはなくて、腕の中で微睡む悠希の髪をそうっとそうっと撫でる。
すると、悠希はふわりと微笑みながら、かわいくおねだりをした。
「……啓吾さん……あ…した、……お散歩…いこ……」
……うとうとしてるからか、言葉はたどたどしいけど、ちゃんと聞こえてるよ。
こんな何でもないことが、ほんの少し前は言えなかったらしい。
遠慮せずに頼みごとができるようになった……そのささやかな変化が嬉しくて堪らないんだ。
「ああ、行こう。手もつなごうか」
額にキスをしてやると、また笑って目を閉じた。
……しばらくすると寝息が聞こえてきた。
大事な恋人が風邪などひかぬように、毛布を肩までしっかりとかけ直して、自分も目を閉じた。
次の日。
目が覚めると、横で悠希は眠りの中……目を覚ましてしまわないように、そっとベッドから抜け出す。
……悠希が起きる前にしなくてはならないことがあるんだ。
これまで悠希が入ったことのない、物置がわりに使っている部屋から先週末に買った荷物を取り出して、リビングに運んだ。
先に置いてあったソファとその下のラグをキッチン側へと少し動かして、窓側にできたスペースに新しいラグを敷く。それからその上にクッションをのせて、両方から値札をとったら完成。
予想通りのできに、我ながら満足する。
目が覚めて、部屋の変化に気づいたら……悠希はどんな顔するのかな。これならきっと喜んでくれるだろう。
うきうきした気分でキッチンに戻り、朝食の準備を始めた。
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