76 / 105

第3話

悠希が目を覚ましたのは、早炊きにしたご飯が炊けて、夕べの残りの味噌汁を温めなおしているときだった。 ぱたぱたとスリッパの音が鳴って、こちらに向かってくるのが分かる。 「───悠希、おは……」 ───ぼふっ。 ……『おはよう』を最後まで言う間もなく、悠希が背中に抱きついてきた。 「……啓吾さん、ここにいた……」 寝起きのせいか、少しかすれた声。 そのまま頬っぺたをすりすりと擦り付ける。まるでマーキングするみたいに。 寝惚けてるときの悠希は甘えんぼ度と寂しがり度が急上昇する……これも、あの1ヶ月の出来事があってからの変化だ。 不安にさせたせいかなと、いたたまれない気持ちになったこともあったが……まあ、これも遠慮がなくなったからだと考えることもできるし、何よりかわいいのでよいのだと、今は思ってる。 「もう、ご飯ができるよ。ちゃんとここにいるから、顔を洗っておいで」 「………うん」 返事は素直だが、ぎゅっと抱きついた手の力は緩まない。まだ、満たされないのかもしれない。 顔を洗ってしまえば完全に目が覚めて、こんな姿は見れなくなる。 なんだかそれももったいないことようにも思えるし、もう少しこのままでもいいのだが……そうも言ってはいられない。せっかくの朝食が冷めてしまう。 「………悠希。待ってるから、行っておいで」 もう1度うながすと、「……うん」と返事をして、洗面所へ向かった。 顔を洗って覚醒した悠希は、さすがにもうべたべたすることもなく、着替えてリビングへと入っていった。 さあ、気づくかな。 わくわくする気持ちを押さえてご飯をよそっていると、悠希がキッチンに戻ってきたが…… ───あれ? ……特に何も尋ねてこない。 気づかなかったのかな?窓には近づかなかったのか? いつもの席に座ると「いただきます!」と挨拶をしておいしそうに朝食を食べる悠希に、プレゼントに気づいたかなんて聞けず……そのまま自分も箸を手に取る。 何だか肩透かしを食らった感じだが、少し気にはなっているのか、食事中にリビングの方を見ては不思議そうな顔をしている。 うん……何となくだが、変化を感じているのかもしれない。 朝食を食べ終わって、二人で片付けをして……お茶をいれる間、先に移動した悠希の様子をそっと伺う。 リビングに入ると部屋の中をきょろきょろと見渡し、ぴたっと窓側で足を止めた。目線の先は当然、新しいラグだ。 よし、気づいたな。 ぱぁっと顔をほころばせて、こちらへやって来るのを待っているが… ───ん? いつまで待っても悠希はやって来ない……それどころか微動だにしない。 じっと床を見て固まっている。 どうした?気に入らなかった? 何も反応がないのがじわりじわりと苦しくなってきて…… 「──悠希、お湯が沸いたから温かいものでも飲もう」 とうとう我慢できずに、悠希をこちらへ呼ぶ。 「……………はーい」 いつもとは違うどこか気のない返事に、何だか胸がざわざわした……

ともだちにシェアしよう!