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すねる 第1話
その日もいつものように、僕はお気に入りの場所でひなたぼっこをしていた。
啓吾さんが僕のために用意してくれたラグもクッションも、今では欠かせないアイテムで。長い毛足の感触を楽しみながら、うつ伏せになったり仰向けになったり……のんびり過ごしていた。
しばらくすると、リビングに啓吾さんがやって来た。
ラグに転がる僕を見て、ちょっと目を細めて嬉しそうにすると、ソファに座ってテレビをつけた。
……それが何だかちょっと、くすぐったい。
しばらくリモコンを触ってあれこれ番組を変えていたけれど、ふとひとつの番組で止まるとじっくり見始める。
……何、見てるのかな。
啓吾さんが見ている番組が気になって、ころんとうつ伏せになってテレビを見る。
どうやら、2時間もののスペシャルドラマらしい。最近かわいいと人気が出てきているアイドルが主役のようで、画面の中で猫とじゃれあっている。
何でも人間の言葉が分かる猫とその飼い主の女の子の話らしいんだけど……これ、おもしろい?
日曜の昼下がり、家族と一緒に見るにはいいのかもしれないけど……啓吾さんの好みではないんじゃない?
不思議に思って啓吾さんの方を見ると、何だろう……すごーくにこにこしながらテレビを見てる。
ちらりと画面を見直すと、アイドルが猫を撫でながら話しかけているシーンだった。
この子、「今、人気急上昇中だ」って聞いたことがある。いつだったか、仲間内で好きなアイドルの話で盛り上がったときに、誰かが言ってた。
確かに、かわいい子だよね。
髪の毛はさらさらの黒髪で、目はくりっとしていて、小柄ですっとした体のラインなのに出るとこは出てて……
ちょっと清楚な雰囲気があって、みんなに好かれそうな美人さんだ。
こういう子が啓吾さんのタイプなのかな…?
そう考えると何故か胸がチクリとした。
───あれれ。
思わず胸を押さえる。
何でチクリとしたのかな。相手はアイドルだよ?
もやもやしたままもう一度啓吾さんを見るけれど、そんなことにはお構い無しで画面を見ている。
……僕のことは気にしてない。
そう言えば……
そう言えば、以前僕が啓吾さんの新しい恋人だと勘違いした、いとこの愛里さんもこんなタイプの人だったよなあ……
とってもかわいらしくて清楚な美人さん。
啓吾さんと一緒にいると、まるで映画のワンシーンのように素敵で……とってもお似合いだった……
やっぱり啓吾さんには、こんな感じの女性が似合うよね……
そう考えるとまた、胸がチクリとした。
───あれれ。
本当にどうしちゃったんだろう。また、胸が苦しい。
チクリどころか、ズキズキ痛くなってきた……
目の前がじわじわとしてきて……もうダメだ、と思った僕は、いつものおまじないをすることにした。
うつ伏せのまま肘をたてて体を少し起こすと、左手の薬指にはまった指輪を撫でる。
あの1ヶ月で少しやせたせいか、指輪はそのたびにくるくると回る。
そして心の中で呟くんだ。
……大丈夫。大丈夫。
啓吾さんは、僕が好きだと言ってくれたから大丈夫。
啓吾さんは、僕と一緒にいたいと言ってくれたから大丈夫。
僕の指には、まだ指輪があるから大丈夫。
……大丈夫。自信をもとう。
おまじないがきいて心が落ち着いてくると、今度は体がうずうずしてきた。
わがままかもしれないけど、好きだと思ってくれているなら……もっと見て欲しい。かまって欲しいんだ。
───よし。
心を決めるとラグから体を起こし、啓吾さんの座るソファの空きスペースに体を滑り込ませた。
もともとひとりだったから、ソファの真ん中に座っていた啓吾さん。
だから、空きスペースといっても狭くって、座ると体がぴったりくっついてしまうんだ。
それがちょっと嬉しくて、ふふっと笑ってしまったのだが……啓吾さんはこちらを見ることもなく、ずずっと横に動いてしまい、ふたりの間に隙間ができてしまった……
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