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第2話

───むぅ。 わざとなのか無意識なのかは分からないけれど、啓吾さんとの間に隙間が空いてしまったのが嫌だ。 啓吾さんの顔を覗くと、やっぱりテレビに夢中。 僕がこんなことを考えているなんて気づいてもないようだ……それなら。 今度は啓吾さんの着てるセーターの裾をつかんで、くいくいと引っ張ってみる。 ねえ、こっち見て。 かまって、かまって。 ……ところが、啓吾さんは全くこちらを見もしない。 あれぇ、と思ってもう一度引っ張ってみる。 ねえねえ、かまってかまって。 けれどもやっぱり、啓吾さんは何にも反応してくれなかった。 ───むむぅ。 今度はちゃんと引っ張ったし、気づいていないわけでもないと思うんだ。 でも、何にも返してくれないなんて、そんなに画面に……テレビの中のアイドルに夢中なわけ? ちょっとすねたような気持ちにもなって、ソファの上で、膝を抱える。 僕はそのまま体を傾けて、啓吾さんの体にもたれかかった。 ……僕、横にいます。 ちゃんとここにいます。 だからね、見て欲しい。 触って欲しいの。 かまって欲しいの。 アイドルみたいにかわいくないけど、僕ならずっと一緒にいられるよ? テレビの中の人と違って、ちゃんと触れるよ? そんな僕の気持ちなどつゆ知らず、啓吾さんは画面に夢中なままこちらも見ずに、楽しそうに話しかけてきた…… 「ねえ、この子、すっごくかわいいね」 ───コノ子、スッゴクカワイイネ。 啓吾さんの言葉が、まるで外国の言葉のように聞こえて、何のことだか一瞬分からなかった。 「ほら見て、今の顔。やっぱりかわいいよね!」 啓吾さんの楽しそうな声に、頭をがんっ、と殴られたようにショックをうけた。 ───むむむぅ。 僕のことは見てくれないのに、テレビを見てにこにこ……何?何なの? どうしたらこっち向いてくれるの? 何やってもダメなんて、いったいどうしたらいいんだよう! 思い通りにならなくて……啓吾さんにもたれていた体を起こし、また体育座りになって膝におでこをつける。 もう、何したらいいのかわからなくて…気持ちも次第にしゅるしゅると萎んでいく……あー……涙でてきそう…… 啓吾さんに泣いてるとこなんて、見られたくない。 どこか別の部屋に行って落ち着こう…… そーっとソファからおりて離れようとすると…… 「……離れちゃ駄目だよ」 ぎゅっと右手首を掴まれると、ぐいっと引っ張られる。 「───わっ!」 バランスを崩して倒れるっ、と思った次の瞬間、僕は啓吾さんの腕の中にいた。 「側にいてくれないと駄目だよ、悠希」 啓吾さんの優しい声が耳元で聞こえて、じんわりと涙が滲んできた……

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