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第5話

「そう、猫。かわいくない?」 「……え?……いや…うん、かわいい……けど」 ───じゃあ、啓吾さんはさっきから猫ばかり見てて……で、僕は僕で、それにヤキモチ妬いてたってこと? ヤキモチの相手は人間じゃなくて猫って……情けなくない? かーっと顔が真っ赤になるのが分かって、恥ずかしくて啓吾さんの胸にしがみついた。 「ほら、この猫さ、ちょっと悠希に似てるでしょ?」 そんな僕にお構いなしで、啓吾さんは楽しそうに話を続ける。 「………僕に?」 「うん、やっぱり似てるよ。ひなたぼっこしてるときの気持ち良さそうなとことか……ふにゃって和んだときの顔の感じとか……」 滔々と、僕と猫の似ているところについて語り出す啓吾さん。 ……自分では猫に似てるって思ったことないんだけど。 まあ、犬というよりはどちらかというと、猫に近いかもしれない。と、いうことは…… 「啓吾さんは、猫っぽいところがあるから、僕のこと好きになってくれたの?」 好きなものに似てる……共通点があったからこそ、同性である僕のことも好きになってくれたのかな? 「いや、別に猫が好きなわけではないよ?」 ……ん?どういうこと? 「逆だよ、逆」 「……逆?何が?」 「だから……猫が好きだから悠希が好きなんじゃなくて、悠希が好きだから猫もかわいく見えるってこと!」 そう言うと啓吾さんはいつものように、僕のほっぺたを優しくふにふにとつまんで微笑んだ。 「一番かわいいものに似ているから、猫もかわいい。ただそれだけだよ」 ───分かった?と尋ねてくる啓吾さんはやっぱり素敵な笑顔で、こんな恋人がいるなんて僕は本当に幸せだと……改めて思った……ちょっと、恥ずかしいけど。 じんわりと胸が温かくなって、幸せを感じているところで啓吾さんが言った。 「……ほんと、この猫かわいいね……もしかして写真集とか出てるのかな……」 僕を膝から下ろすと、ソファのすみに転がっていた携帯電話を手に取った。どうやら、通販サイトを検索しようとしているみたいだけど…… 「────ダメ!」 思わず大きな声を出すと、もう一度啓吾さんの膝にのって、手にした携帯電話を奪い取る。 ……考えるより先に、体が動いてしまった。 「───僕がいるのに、写真集とかいらないでしょ?……写真の猫より、本物の僕を見てくれなきゃ、やだ」 奪い取った携帯電話をソファに放り投げ、僕は啓吾さんの首に両腕をからめて、ぎゅっと抱きついた。 せっかく一緒にいるのなら……僕を、僕だけを見て欲しい。 猫に嫉妬なんて恥ずかしいし、自分だけを見てなんてわがままだと思うけど……でも、気持ちを押さえきれないんだ。 「───ひゃっ!…んっ……」 抱きついていたら突然やって来た感覚に、思わず甘い声が出た…… 啓吾さんの手が僕の服の裾から滑り込んで、左胸をさわさわと撫でる。 「………あ、んんっ……啓吾さっ…!」 止めようと開いた口に啓吾さんの舌が入り込む。 僕の舌を絡めとり、甘く痺れさせ、口蓋を撫で上げる。 ───気持ちよくて、ぼうっとしてしまう。 啓吾さんの舌が離れていくと、ふらふらした自分の体を支えきれず、啓吾さんの肩にもたれた。 僕の耳元に唇を寄せると、啓吾さんは甘い声で囁いた。 「じゃあ、本物の悠希を、もっと可愛がろうかな」 「………あっ……」 ぞわぞわと、何かが背中を撫でるような感覚……このあとの展開くらい、お子様な僕にだって分かるよ。 でも、それは嫌なことではなくて、むしろ嬉しいことだから…… 僕はおねだりの代わりに、啓吾さんの首筋にキスをした。 これから僕は啓吾さんに、猫みたいに可愛がってもらう予定なので……あとのことは、二人だけの秘密です。 end

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