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補給する 第1話
最終の電車に乗り込むと、車両にはほとんど人がいなかった。
ガラガラなのでどこに座ってもよかったのだが、歩き回る元気もなく、そのままドアに近い座席に座る。座ったらほっとしたのか、ぐったりと力が抜けてしまった。
「………あー…疲れたー……」
思わず声に出てしまったが、周りに人がいないので大丈夫だろう。
3月に入り年度末が近づくにつれて、忙しさが尋常じゃないレベルまで達するのは、うちの会社では毎年のことだ。
これまでの経験をもとにした読みに間違いがなければ、来週を乗りきればヤマは越えるはずだ。
毎年のことだと分かっているし、ある程度覚悟はしていたのだが、やはりきつい。何がきついかって……
「………あー…悠希に会いたいなー…」
……恋人に会えなくてしんどいのだ。
よくよく考えれば去年のこの時期だって、同じように忙しくて、やはり2週間以上会えなかった。
それでも仕事は仕事と割り切って、会えなくても平気でいられた。
こんなことを言うのはあれだが、疲れた体で相手をするのは勘弁してほしいと、会わずにすむなら楽だと、思うことも正直あった……もちろん、本人には言わなかったが。
だけど、今は違う。
こうして仕事が終わると、途端に悠希のことで頭がいっぱいになる。
今、何をしているのかな。
ちゃんと食べてるのかな。
……俺と会えなくて寂しいと、少しは思ってくれているのかな。
こんなにも心を奪われているのに、悠希自身は全く気づいていない。
ため息をつきつつ、携帯を取りだしメールをチェックする……が、今日も恋人からのメールはない。
原因は間違いなくこのメールだ。
受信メールボックスから、最後に悠希から届いたメールを取り出す。
『お疲れ様です。
お仕事が落ち着くまでは、メールも電話も控えますね。
また、会えるようになったら連絡ください。
無理はしないでくださいね。 悠希』
もう何度も読み返したメールが『会いたい』という文字に変わるはずもなく、これまたもう何度目か分からないため息をついた。
確かに、忙しくなると先にメールしたのは俺だ。
帰りも遅くなるし、余裕がなくて電話もできない日があるだろう、と。
だけどそれは決して『ほっといてくれ』という意味ではなかったのだが…
こういうとこ、あるよな…
悠希は自分が俺にとってどれだけ大切な存在なのか、まるで分かっていない。呆れるほど自己評価が低いんだ。
後ろに体をそらすと、後頭部がガラスに当たる。
一日中パソコンの画面とにらめっこしていた目を閉じて休めると、浮かんでくるのはやっぱり悠希の顔だ。
……あー、会いたいなあ…
少しでいいんだ。
ちょっと会って、笑ってる顔を見せてくれたら、明日も頑張れるのに。
忙しいから……疲れてるから、会いたくないんじゃない。疲れてるからこそ、会いたいんだよ……悠希。
それが分かってくれたらいいのになあ……
車内アナウンスが降車駅を告げ、重い体をのそりと動かすと、引きずるようにドアへと向かう。
……今日はもう、メシはいいや……風呂入って寝よう。
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