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第5話
とりあえず帰るのをやめた悠希が、作っていたおかずや味噌汁を温め直し始めたので、その隙にシャワーを浴びる。
さっぱりした気分になってキッチンに戻ると、準備された夕食からはほかほかと湯気がたっていた。
おっ、肉じゃがだ。
久しぶりに食べる手料理に嬉しくなるが……当の本人は、ダイニングテーブルの椅子の上に体育座りをしている。
いつの間に持ってきたのか……前に買った黄色いクッションを顔に押し当てているので、どんな顔をしてるかは分からない……声がもれてこないところからすると、泣いてはいないようだが……
顔が見たいところだが、宥めて説き伏せて今ここにいるのだ。帰ると言わないだけよしとしよう。
「いただきます」
顔を隠している悠希にもちゃんと聞こえるように、わざと大きめに声を出す。
じゃがいもを箸でつまんで口にいれると…
「………うまい」
形は不揃いかもしれないが、味は抜群によくできていた。
苦手だとよく言っているが、その分慎重に作るからか悠希の作る料理はいつも美味しい。自信もっていいのになあ。
ちらりと見ると、うつむいているせいかその細いうなじが目につく。
なんだかやっぱり、またやせた気がする…
──ん?もしかしてだが……
「……悠希さあ、今日の夕飯食べた?」
びくっと肩が揺れると、『はい』も『いいえ』もなく、固まってしまった。
……やっぱりか。
「……じゃあ、一緒に食べようか。ほら、口開けて?」
手頃なサイズのじゃがいもをつまむと、口の高さまで差し出してみる。
───あーん。
「……………」
しかし、特に反応もなくぴたりと止まったままだ。
………まあ、そうでしょうね。
これは予想の範囲内……だとしたら、これならきっと……
「───あー、悠希が食べてくれないと、ずっとこのままだなー。腕、疲れちゃうなあー」
ちょっと卑怯な駆け引きにでてみる。
今の悠希にとって、俺の『疲れる』は絶対に聞きたくない言葉のはず……そうさせるくらいなら、きっと自分が折れるだろう。
すると……
ちらっと、こちらの方を向く……微かに見える両目はかわいそうなくらい真っ赤だ。
それから、俺と箸に挟まれたおかずを交互に見ると……ぱかっと、かわいらしく口を開けた。
すかさず、肉じゃがを口に入れてやると、もぐもぐと口を動かした。
───か、かわいい!
ちょっとした小動物みたいなかわいさ。
思わずぎゅっと抱きしめてやりたくなるが、もっと食べさせたいので我慢する。
……自分と悠希と、交代交代で食べ進めていくと、あっという間に皿から料理はなくなったのだった。
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